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第33話

 小敏(しょうびん)が見下ろすリビングには、豪奢な本革の大きなソファセットがある。その4人掛けのゆったりとしたロングソファに深々と腰掛け、リラックスした様子の父・羽厳(う・げん)がいる。 (父さん?)  嬉々として父親に声を掛けようとした小敏だったが、その様子の異様さに驚いてフリーズしてしまう。 「ああ…いいよ…」  羽厳の開いた足の間には、小柄な誰かが座り込み、小刻みに動いている。それが何を意味するのか、経験的に小敏には分かっていた。自分もまた、初めての恋人である包文維(ほう・ぶんい)と様々な行為を試したからだ。  恍惚とした表情の父親を、小敏は初めて見た。それをどう受け止めていいのか、小敏は混乱する。  父親に清廉潔白であって欲しいとは思うが、母を喪って長い今、男として欲望を昇華することは間違ってはいないと理解できる程度に、オトナになっていた小敏だった。 (落ち着こう…)  そう思って深呼吸をした小敏だったが、次の瞬間、その息を止めた。 「イイ子だ…」  愛欲に満ちた艶めかしい父の声に、小敏は耳を塞いだ。 「あぁ…ん」  甘やかな声に小敏は思わず目をやって衝撃を受けた。先ほどまで羽厳の足元に蹲って奉仕していた小柄な男が、成熟した男の逞しさと色気を持つ美男の将軍に背を向け、ローテーブルに手をついた。そしてその細い腰を付き出し、それを掴んだ羽厳が自身の勇壮な雄宝を突き立てた。  どちらも慣れた様子に、小敏はそれが現実の光景だとは思えなくなっていた。  それなのに、小敏は「それ」を確認して愕然となった。 「あ…ん…。イイ…、う、ん…っ」  破廉恥な甲高い声を上げ、小敏の父親に犯されていたのは、小柄な男性ではなく、10代の幼ささえ残した面差しの少年だった。  そして、積極的に腰を振り、羽厳将軍を夢中にさせていた少年の顔に、小敏は忌まわしい現実を突きつけられた気がした。 (兄さん…!)  小敏の父・羽厳のセックスの相手は、10年以上前に17歳で亡くなった小敏の兄とソックリに、小敏には見えた。  早くに母を喪い、シングルファザーとして、1人息子となった自分を溺愛してくれた優しい父を、小敏は家族として愛し、尊敬もしていた。普段は同じ上海に暮らす、叔父夫婦や従兄を家族として大切にしている小敏だが、やはり本当の家族としての拠り所として父親は特別な存在だった。  その敬愛する父が、少年と淫行し、ましてやその相手が亡き兄と似ているとなれば、小敏にとっては父と兄の性交を見せつけられたのも同じだった。 (お父さんは、兄さんが…好きだった?)  そのような欲望の欠片も、自分に対して微塵も感じたことが無かった小敏だったが、それは幸いな一方で、選ばれたのが自分ではなく兄なのだ、と言う複雑な心情も残った。  その後の小敏の記憶は曖昧で、夕方に父たちが出掛けた隙にマンションを飛び出し、上海へ向かったのだった。

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