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第6話
中学生の夏、今年みたいに暑い夏だった。
その頃にはもうすでに人嫌いだった悠は、水泳の授業が苦痛でしょうがなかった。
クラスメイトより遅く隠れて着替え、目立たないように一番後ろに並び、人の顔を見ないようにしていた。
勿論女子の方など、絶対に見るわけにはいかない。この授業さえ耐え抜けば大丈夫、と自分に言い聞かせて挑んでいたが、その日は朝から調子が悪く、何本か泳いだところで気分が悪くなってしまった。
眩暈がし、早く水からあがらないと、と思うが、身体が言うことをきかない。
プールサイドに掴まったまま、動けなくなってしまった悠は、パニックを起こした。
次の人が泳いで近付いてくる、それが怖くてギュッと目をつむると、手足が痺れていることに気付いた。
「苦しい……っ」
胸を押さえて屈みたくなるが、水の中ではそうもいかない。
頭もぼうっとし、遠くなり始めた音の中で、先生の笛の音と、大きな水しぶきの音がした。
「ぁ……っ」
痺れた全身に、強引に連れて行こうとする腕が絡みついた。ビックリして振りほどこうと、無我夢中で暴れる。
「こら、暴れんなって、俺だからっ」
「き……っ」
まともに声を発することもできなかった。
清盛は抵抗をなくした悠を引き上げ、ベンチへ寝かすと、大きな手のひらで悠の目を覆った。
「い、息、でき……」
「大丈夫、悠はちゃんと呼吸してる」
俺の言う通りにして、最後まで息を吐いて、と言われ言う通りにする。
何度かそれを繰り返しているうちに、自分でも落ち着いてきたのが分かった。でも、まだ全身に力が入らない。
その間中ずっと、清盛は目隠ししてくれていて、何故この手だけは怖くないのだろう、と考えていた。
「木全くん、後は先生が見てるから、次の授業出なさい」
保健の先生だろうか、まだ若干遠くで聞こえる声をぼんやり聞いていると、清盛が頷く気配がした。
「……だ、やだ、怖い……っ」
目頭が熱くなって液体が流れて行く。
「分かった悠、ここにいるから、あんま喋んな」
「木全くん……」
戸惑う先生の声に、清盛のいつになく硬い声がした。
「先生、実はこいつ……」
心地良い手のひらに安堵して、悠はそこで意識を失った。
思えばこれがきっかけといえばきっかけだ。他人の手とは違い、清盛の手はすごく綺麗なものに見えた。
そしてそれはそのまま、清盛への憧れに繋がっていった。
明るくて、人懐こくて、自分の思うように行動する清盛。
時々わがままで、面倒臭がり屋なところもあるが、愛嬌と人気でそれをカバーできている。
いつもポジティブで、真っ直ぐで、悠みたいな人嫌いとも付き合ってくれる。
「きっと、友達とか、幼馴染とかの関係が、俺たちにはちょうど良いんだと思う」
「……ふーん」
まだ少し納得していないような雰囲気だったが、藤本は前を歩く二人を見て相槌を打った。
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