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#1

アリスさんと番った翌日、土下座&クビ覚悟で店長の元へ向かった。冷静になって考えてみれば、俺はとんでもないことをしてしまったわけだ。 アリスさんはこの店で看板を背負っているキャストだ。 もっとも、俺の給料の半分以上がアリスさんの力のお陰と言っても過言ではない。 そんな店としては絶対に手離したくないであろう彼にあんな…………あんな… “───ぁ、おっきい…健太君、けん…っんあ、あっ” ……いやいやいや。 思い出すところはそこじゃないだろう。 俺はだらしなく緩みかけた口元に力を込め、誰かが見ていたのなら間違いなくドン引きする勢いで頬をバシバシと打つ。 「あれ?……お、やっぱり健太だ!」 ふと、後ろから聞こえたのは懐かしさすら覚える声。 そこには感謝をしてもしきれない、大切な友人の姿があった。 「……山内」 「復帰してたのかー!体調、もう大丈夫か?」 「昨日からな。連絡するよりは顔見せた方がいいかと思ってたら、その…タイミング逃したんだ。 ……心配かけたな。」 山内もまた、命の恩人だ。 あの日、たまたまアリスさんを乗せたのが山内で、俺の家にアリスさんを連れて来てくれなければ…今の俺の命はなかったのだから。 「……で、あのー、えっ…と」 「ん?」 何故か山内は、ほんのり頬を赤らめていた。 その上発する言葉は歯切れが悪いどころか、日本語なのかすら曖昧だ。 「……何だよ」 「ぁ、アリスさん…とは…………そ、その後……進展とか…あったのか、な……って…………その…」 あぁ。 そうか、山内は…そうだよな、そこだよな。 あんなもの────…。 当事者である俺ですらにわかには信じ難い、映画のワンシーンのような光景を目の当たりにしている山内なら、気になるのも当然か。 「…ちょっと煙草付き合えよ」 「なっ!病み上がりが身体に悪いぞ!」 「…来るの?来ねーの?」 「行くに決まってんだろお〜!」 店長の元へ行く前に、まずは説明のリハーサルも兼ねて山内と話す事にした。

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