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#16

今日も健太君は家にいた。 俺が辞めてからは早番の日も増えたらしい。 あの時山内君に渡されたスペアキーは 合鍵という名に変えて、俺のものになった。 ただ、あくまでも健太君の家であることに変わりはなく、 勝手に鍵を開けて入ったことはまだ、ない。 そういえば、健太君の家に行くって言ってなかった。 店で返信したまま、健太君からの返事はきてないし。 …浮気、とかは……流石にしてないよね。 健太君だもん。 でもこんなに突然押し掛けられて、健太君は迷惑しないだろうか。 突発的な行動に若干メンタルをやられつつ、 勇気を出してベルを鳴らした。 いつもなら、奥の方から足音がしたり、 実は面倒くさがりやな健太君らしく、“入ってきていいですよ”ってメッセージが届いたりする。 でも今日は──。 「あ、れ…?」 物音も、通知も何もこない。 こんな事なかったのに…。 その時、脳裏にあの日の光景がよぎった。 ベッドから落ちて横たわる、苦しそうな姿。 今にも消えてしまいそうなほど痩せて、 口元から溢れる真っ赤な血…。 まさか…。 ドクドクと脈打つ身体は良くないことばかりを考え、 冷静さを保つことができなくて。 キーケースの中で眠っていたそれを乱暴に取り出して、鍵穴に差し込んだ。 「健太君!!」 玄関の電気をつけると同時に叫びにも似た声を上げる。 もう夜も遅いというのに、近所迷惑だ…とか そんなことも考えられないほど心はざわめきだってどうしようもなかった。 すると バタンっ!!! 「ぎゃあっ!」 突然奥の方から大きな音が聞こえて、 あまりに驚いたものだから、つい腰が抜けてしまう。 あの方向……は、えっと… 浴室? 「…え、あ……アリスさん?何…?」 靴箱にもたれかかったまま濡れた足から順に見上げれば、 がっつりシャワーを浴びていたであろうびしょ濡れの健太君が 頭からタオルを被って立っていた。 身体を拭く暇もなく、 気持ち程度にパンツだけ履いて慌てて出てきてくれたんだろうけど…。 濡れてるせいで…、 下着も濡れてて… その、形が……形がわかっ………。 「健太君のすけべ!!!」 「てっめぇのせいだろうが!!!」 俺たちの声は、恐らくこの建物中に響き渡った事だろう。

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