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#17
半ば強制的に脱衣所に押し込まれ.わざとらしくため息をつくアリスさんに苦笑しながら着替えを済ます。
一日を終えた後改めて家で浴びるシャワーの時間は
自分でも可笑しいと思うくらいに長く、
何度も力に任せて擦る身体は所々に傷がある。
よかった、アリスさんが目を伏せてくれていて。
もしこんな身体を見られたら、
きっと心配をかけてしまうだろう。
「…お待たせしました、すいません、なんか…」
「あーーもう本当すけべ。俺じゃなかったらどうするつもりだったの?!」
ぷりぷりと怒ったふりをしてそっぽを向いているけれど、
耳まで真っ赤なところを見ると、
案外ピュアな一面も持っているのか、なんて思って口元が緩む。
「いや、あんたが叫んだから飛んでったんでしょうが」
「あ、あー…そっか。ごめん……って、健太君?」
「…何」
「泣いてた?」
ふとこちらを見たアリスさんに言われた言葉に固まった。
しまった、と。
悔しさのあまりいつの間にか流れる涙は止まらず、
汚染された体とともに洗い流すことで何とか平常心を保っていた。
アリスさんの突然の訪問に、そこまでは気が回らなかった。
「目、赤いよ?何かあった…?」
「……別に。アリスさんが急に叫ぶもんだから、シャンプー目に入ったんですよ。時期に引きます」
「あーーもうまた俺のせいにする!!」
苦し紛れについた嘘をなんとか信じ込ませほっと一息つけば、
余程気に入らなかったのか、
はたまた照れ隠しなのか、びしょ濡れのパンイチを引き合いに出されてしばらくの間しょうもない言い合いをし続けた。
そんなアリスさんからのすけべイジリもようやく終わった頃、
そこそこ遅い時間ではあるが在りもので適当な夜食を作った。
こちら側の仕事に移ってからというもの、
一人では食欲など到底わくはずもなく、
アリスさんのお陰でなんとか人間としての生活が出来ている…そんな有様だった。
昨日といい今日といい、
もうすぐ傷みそうなものばかりを使った料理でアリスさんが腹を壊さないか心配になる。
俺よりも多めに盛りつけた皿をアリスさんの前に出し、
隣り合って座った。
「健太君それだけ?俺、急に押し掛けたんだし気遣わなくていいんだよ?」
「あぁ、いいんすよ。俺さっきコンビニ寄ってきたんで」
「…そう?」
「…ん。ほら、今日も冷めた飯食うつもりですか?」
そうやって煽ればアリスさんは単純だから、
少し顔を赤らめて前に置かれた箸を手に取る。
美味しそうに俺の作ったものを頬張るアリスさんは今日も今日とて可愛くて。
一日の疲れは吹っ飛ぶどころか
嫌というほど屈辱的な行為を繰り返したこの身体が、
まだアリスさんを求めようとするから自分に笑いそうになる。
こんな醜い自分が、こんな汚い自分が、
アリスさんと一緒に居て本当にいいのだろうか。
アリスさんが何も知らないのをいいことに、
強がって生意気ばかりほざいて、
いつか本当の事を知られたらと思うと恐怖でどうにかなりそうだ。
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