「そーいや今日、来るとか何も言ってなかったけど 急にどうしたんですか？香水？」 皿の上も空になった所で、忘れかけていた疑問をぶつけた。 そもそもあらかじめ訪ねられることを知っていたのなら、 俺がすけべだ何だと騒がれることもなかった様に思えるが…。 「あーうん、特に…そんな、なんかあるって訳じゃないんだけどね。 会いたくなった…からさ」 「へえ」 アリスさんは、何かを隠しているようだった。 素直に話してくれた方が俺としては気分がいいし、 何か力になれるかもしれないとも思う。 けれど今この俺自身、アリスさんに大きな隠し事をしているのだから それを強くいうことなんて出来るはずもない。 アリスさんが言いたくないのなら、 アリスさんが1人で解決できると思っているのなら、 俺が干渉しすぎるのは、よくない…かな。 「愚痴でも何でも、俺聞きますからね」 あまり溜め込まなくていいんだよ、アリスさんは。 そういう苦しいのは全部俺が背負うから、 アリスさんは笑ってていいんだよ。 「……あ、りがと」 少し顔を赤らめるアリスさんの頭に、ポンと手を置くと 俺よりも細くて小さな手が、優しく握り返してくれた。 「健太君も…、無理しちゃダメだよ？」 何も知らないはずのアリスさんに言われるその言葉は、まるで魔法だ。 俺の身体をどこまでも優しく包み込んで 今日の、昨日の、痛みと苦しみ そして明日からも繰り返されるであろう地獄を 全て忘れさせてくれるかの様な。 「アリスさんが居てくれるなら、大丈夫ですよ俺は」 冗談でも、大袈裟でも無い これは俺の本心だ。 アリスさんのためならば、俺は何だって差し出せる。 アリスさんの笑顔を守りたいから頑張れる。 俺があの場から逃げれば、 アリスさんに何も害が及ばないとは言い切れない。 こんなに誰かを愛したことが今までなかったせいで 俺のこの重苦しい考えが、 正しいのか、間違っているかもわからないけれど。 「ま…また恥ずかしい事、すぐ言うんだから！もー！」 「真っ赤じゃんアリスさん」 「うるさい！ …っあ、そういえばね、健太君に聞きたいことあったんだ！」 「ん？」 アリスさんは、俺の肩にコテンもたれかかると いつも通りの声で、いつも通り話すみたいに 何を気にするそぶりをするでもなく、口を開いた。 「そっちにさー、αキャスト入ったって本当？ 健太君、その子の事知ってる？？」 「──え？」 突然の問いかけに、 息が、止まるかと思った。