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数年後
「りゅうー!げんー!ご飯出来たよーっ」
「「はぁーい!」」
とか言って、俺は作ってるところ傍で見てただけなんだけど。
手に持つおもちゃもそのままに、
ドカドカと走って椅子に並んで座る2人。
「こら、先に手洗ってこい」
「えー!父さんも洗ってない!!」
「父さんは作ってる時洗ったんだよ。」
自分の事父さんって呼んで、
俺との子供をこうして世話する健太君を見る日が来るなんて、
昔の俺は夢にも思っていなかった。
俺の世界一格好いい番は
世界一格好いいお父さんになった。
「ズルい!!パパもズルいって思うでしょ?!」
「……あはは、確かに〜。一緒に洗っといで〜??」
健太君の大きなため息が聞こえると、2人はニッと意地悪な笑顔を浮かべ、
勝ち誇ったように小さな2つの手が健太君の両手を引っ張っていった。
温かくて、賑やかで
笑顔の絶えない日常がこうして当たり前のように繰り返される。
…幸せだな、俺。
すると、健太君のスマホがピロンと可愛らしい音を鳴らした。
上を向いているそれをちらりと覗けば
送り主は山内君。
その頭の1文だけで充分意味を理解出来る内容に、
つい健太君のスマホだということも忘れてトーク画面を開いてしまう。
これまたいつも通り、両手を引かれてリビングに戻る健太君に
一目散に飛びついて先程の画面を突き出した。
「健太君!これっ!!」
「へ?それ俺のじゃ…………え!マジで?」
“嫁さんの出産無事に終わった!”
“めちゃくちゃ可愛い元気な女の子^^”
「山内君もついにだよ〜!音鳴って覗いたらこれでさーっ、もう俺泣きそうになっちゃって〜」
数年前のパンデミック騒ぎにより、今でもその爪痕は大きくこの世界に残されている。
けれど、俺たちや山内君のように確かな幸せを手にできる者も多く存在する事は事実。
今では特効薬やワクチンも開発され、よほどのことがない限りαが病によって命を落とすこともない。
以前と変わらない、平々凡々な日常がようやく世界に戻ってきた。
「…おめでたいですね。今度何かプレゼントでも買って奥さんと子供の顔見にいきますか」
「え!行きたーいっ」
「「おれらもいくー!やまうちー!」」
これまで何度か家に遊びにきてくれていた山内君は、小さい子の扱いが上手で
案の定2人もすごく山内君に懐いていた。
「よし、んじゃあみんなで行くか?
龍樹も玄樹もいいお兄ちゃんになる練習しとけよ?」
「あたりまえだぁ!おれはもう、げんのお兄ちゃんだもん!」
「おれもお兄ちゃんなるー!」
「あっはは!きっと山内君達も心強いね〜!」
素敵な毎日を送れていると、胸を張って言えるのは
いつだって、健太君がここにいてくれるから。
バニラの香りはもうどこにも無いけれど
それが無くたって
香りを頼りに健太君を思い出さなくてもいいくらい
ずっと、ずっと彼の隣に居続けることができるから。
幸せな毎日を
強く、強く生きていく。
Vanilla.─after that─ fin.
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