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2人だけの結婚式
壁際に立って、しばらくしてから気がついた。少し先の窓が開いていることに。そこから庭に出られるようになっていた。
僕はそっとそこから会場を抜け出し、暗い外に出た。
会社の車は駐車場に停めてある。そこへ向かいながら急ぐ用事の無い僕はホテルの手入れのされた庭をゆっくりと歩いた。迷いながら行き着いたのはガーデンウエディングの会場。今日はホテルを貸しきりにしているので、そこは使われていない。
白い石畳のバージンロードが月明かりにボウッと浮かび上がり、幻想的な雰囲気を醸し出している。横に置かれた椅子は片付けられて、正面の机にはシートが掛けられていた。
僕はゆっくりとそこに足を踏み入れた。
バージンロードに足を進めた時、不意に、「おい。男はそこを歩かないんだぞ」と声を掛けられた。
誰もいないと思っていた僕は驚いて、振り返った。
「まぁ、その容姿じゃ歩いても問題無さそうだがな」
男はそう言いながら近づいて来た。
横に並んだ彼は僕より背が高い。
そして、フワリと甘い香りが僕を包んだ。
こんな香りは嗅いだことがない。不思議な甘い香に警戒感は起きず、初対面だというのに親近感さえ感じた。
「新郎の代わりに歩いてやろう」
「普通は新婦の父親です」
返事をすると、「まぁ、今時はなんでもいいんだよ」と笑った。
「それに、僕は女じゃない」
「いいんだよ」
また笑うと、腕を取って自分の腕に絡ませる。
男は「一歩ずつ」と言ってゆっくりと歩き出した。
見ず知らずの男の横顔を見上げる。
発情期はまだ先のはずだ。だけど、体の奥がグズグズと疼くように熱くなるのを感じる。この男は……αだ。しかも、これまで出会った事もない最上級のαだろう。じゃなければ発情期でもない僕が誘惑されるはずがない。
上品な黒いスーツに白いネクタイ。そこに留められているタイピンは高級ブランドの物で、よく見ればカフスも同じデザインだ。
一歩、一歩祭壇に近づいていく。
「何だ。惚れたか?」
スラリと背が高く、上品な顔立ち。髪を後ろに流して固めている。見つめていた僕に口端を上げて笑った。
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