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2人だけの結婚式
「そうですね。格好いいなと思って」
思っていた言葉が素直に口から出た。
Ωの本能だろうか、この上等な男を手に入れたいと身体は欲求しているのを感じる。はしたないとは思っても自分の意志では止めることはできない。
「なんだ。素直なんだな」
言いながら一歩ずつ進んでいく。
自然と笑顔になった。絡めた腕はスーツの上からでも僕よりたくましい事が窺える。
薄い唇と凛々しい眉が精悍な顔つきを引き立てていた。
Ωは受け身だ。そのためか身体は小さく女性と間違えられることも多い。顔つきも美人や可愛らしい。僕も例に漏れず女性に間違われることがよくある。背は170はあるものの、細身だ。美容師をしている従姉妹が髪を弄ってくれていて、少し長めの髪に緩いパーマがランダムに当ててある。柔らかい猫ッ毛で短く刈り上げてもトップがつぶれてしまう。
祭壇の前まで歩いてくると男は、「神父はいないがいいか……」と呟いて、僕と向き合った。
「汝は、この者を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
スラスラと間違えることなく男はしゃべり、「イエス」と答えて、にやりと笑う。
「汝は、この男を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
僕の顔を覗き込むと、顔にかかる前髪をかき上げるように撫でた。
「答えは、どっちでもいい……」
髪をかき上げた手はそのまま僕の後頭部を押さえていた。
避けようとも、逃げようとも思わなかった。
嫌悪感も無く、じっと離れるのを待った。
男の唇は僕の唇を覆い、軽いリップ音を立てて離れた。
「今、この両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり。神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事あたわず」
僕を見つめたまま男は呟き、「行こう」と俺の手を取って、パーティーの行われているホテルへと連れて行った。
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