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予期せぬ出来事
「そうですね、質問を変えますけど」
医者はなんとも歯切れの悪い言い方をする。
「数か月以内にαと関係を持ったことはありますか?」
それはある。もう3か月以上前だ。あれ以来会ってもいないし、他のαとも会ったことはない。
「3か月くらい前ですけど」
医者に正直に話すと、「番ではないんですよね?」と念押しされて頷いた。
項には番の証である噛み跡はない。
「その時発情期だったということは?」
「いいえ。発情期はその数週間前に終わっていました」
「そのαとは同意ですか?」
どうしてそんなことを聞くのだろうかと不思議には思ったが、「同意です」と返事をした。
あの1夜限りだったし、名前も名乗りはしなかったけど、同意だったことは確かだ。
「妊娠している可能性があります。紹介状を書きますので相手の方とよく相談してください」
「はぁ?」
驚いて診察室の椅子から立ち上がった。
「え? どういうこと……」
医者に聞き返すと、「まだ簡易的な検査だけですから確定というわけではありません。Ω専門の産科に紹介状を書きますから検査を受けてください」と改めて言われた。
心臓の音が耳元で聞こえる。
全身の血が熱くなって、息苦しさに胸を抑えた。
「葉山さん? 大丈夫ですか? 葉山さんっ」
医者の声に看護師が慌てて背中をさすって声をかけてくる。
看護師に支えられて診察室に併設された簡易的な病室のベッドに座るように促された。
目の前が真っ暗になる。
何で、妊娠なんて……。
相手はあのアキしかいない。
「葉山さん。気分が悪ければ横になっていいですよ」
看護師の言葉に頷いても横になる気分じゃない。
動揺して身体が震える。
指先から血の気が引いてくるようで、耳の奥ではずっと心臓の音が響いている。
どうしよう。
相手に話そうにも名前も素性も分からない。分かっているのはαであることだけ。
一夜の遊び相手だったのだろう。
番でもないαの子。こんな妊娠をしてこれからどうしよう。
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