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第7話
まさか、あのまま寝てしまうなんて……。
ふと目を覚ますと、満天の星。
仄かに瑠璃色に光る谷。
早く帰らないと、イオが心配してる。
イオが……。ほんとに……?
本当は、父親じゃないのに……。
頭をぶるっと振るって、追い払う。
そうじゃない。イオは、ボクの父さんだ。
あんなの、フィンの嘘だ。
そう思っているのに、伯母のイオへの嫌悪感が、村の人たちの態度が、何度も甦り不安を掻き立てる。
瑠璃色の道も、真っ暗な森のなかも足早に通り抜ける。足元すら見えないような真っ暗な森なのに、まるで何かに導かれるかのように進む。そんな奇妙さにもトール自身は気づかない。
森を抜けると、トールの住む村まではもうすぐそこだ。村の一番外れに彼と父親の住む家はあり、他の家々からはだいぶ離れている。
森から抜けると、トールの足は次第に遅くなる。それでも家の真ん前に来てしまった。しばらく木の扉を見つめていたが、意を決して扉を開けた。
そっと開けてなかを覗くと、夕食の用意の整ったテーブルを前に、息子を待つ父親の姿が眼に入った。頬杖をついて、眠っているかのように眼を閉じている。酷く疲れている様子だ。
トールは、何故か音を立ててはいけないような気がして、そっと内側に身を滑り込ませ、後ろ手に扉を閉めた。
「お帰り、トール。遅かったな」
カチャという小さな音に反応してか、イオが眼を開けた。
いつもと変わらない表情、いつもと変わらない声。しかし、トールのほうは、それらにいつものように応えられない。応えようとして、ぱくぱく口を開けただけで、声は出なかった。
「どうした?そんなとこに突っ立ってないで、早く手を洗って来い。夕食 にするぞ」
イオは立ち上がって、鍋のかかった釜戸に近づこうとした。それをトールの重い声が止める。
「ね……イオ」
「ん?」
いつにない暗い顔の彼をイオは不思議そうに見た。
「イオ、今日、市に来たよね?」
「…………」
「市に行くなら、ボクと一緒に行けば良かったんじゃない?」
虚をつかれたような表情の後、「そうだな」とイオは笑いながら答えた。でも、トールにはそれが本心のような気がしなかった。
イオの僅かな表情の違いをも読み取ろうと、その顔を食い入るように見つめる。
「この前の獲物を肉屋に渡す為に行っただけだから。お前は市でゆっくり物色すればいいと思って。余分にお金も渡したろ?」
どうしてか、言い訳のように聞こえる。
「……いつものお店じゃなくて?」
「市の日は肉屋に渡す方が割りがいいからな」
何もかもすべてが。
「……じゃあ、もしかして、今までもボクとは別に…………」
「…………」
遂にイオが黙ってしまった。安心材料が欲しくて質問を繰り返したが、結局問いつめてしまったいるようなものだ。
眼の前の父親の顔が僅かに曇る。
「ああ。……そうだな。市が立つ度に行ってるわけじゃないが……」
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