39 / 40

第39話

 何度も何度も男の子種も受け入れている。  それは溢れかえる程で、彼の太腿を濡らしていた。  その香りは、何故か不思議と瑠璃の花の香りにも似ていた。  トールはもう喘ぎ疲れ、声も掠れて出ない程だった。  気持ちの良い場所を突かれ(こす)られ、自分自身も何度か達していた。  最初は戸惑っていた肉体(からだ)も、快楽に溺れ、変化する。自分の内から去って行こうとするイオの昂りを、きゅっと締めつけ逃すまいとする。  その度にイオが「可愛い」と口づけを施す。  夜明けが近くなった頃。  これが最後だと。  今までになく奥を、内臓を突き破りそうな勢いで突かれた。 「あぁぁ…っ、ぃおぉぉ」  眼の前が瞬き、身体じゅうが戦慄(わなな)いた。  掠れた声を、それでもあげずにはいられなかった。 「トール」  愛おしげに名を呼ぶその顔は、汗と涙で霞んで見えた。  金色の髪。  青い両の瞳。  そんなふうに。  もう痺れて起き上がる気力もない筈なのに。  手を伸ばし、イオの首に手を回す。  掻き(いだ)く。 「ああ……愛しい方」  その声は自分の声だが、でも自分ではない。  ずっと愛される悦びを共にしていた、もうひとりの自分。  ああ。  最初で最後の愛を交わしたのは、やはりこの谷でした。  あの時は、哀しみのうちに貴方に愛され、心が契れそうなくらい辛かった。  でも、今は悦びだけに身を任せることができました。  愛しています、兄さん……。  の感情をも共にした。  ──それを最後に意識が遠退いた。 ★ ★  朝の光が目蓋を擽る。  トールはゆっくりと眼を開いた。 「…………」  に、初めは気がつかなかった。  身体を瑠璃の花の上に横たえたまま、青い空を見上げる。  静かだった。  誰もいないように。  誰も…………。  身体を起こし、辺りを見回すと、そこには誰もいなかった。 「イオ……」  谷じゅうを探し回ることはしなかった。  不思議とここにイオがいないことが感じられたから。 「イオ……なんで。人間(ひと)に戻ったんじゃなかったのか。ボクと一緒にいる為に人間(ひと)に戻りたかったんじゃなかったのか」  つんと鼻の奥が痛くなる。  でも、涙は流さない。  見れば、衣服はきちんと整えられていた。  ところどころ、青く染まった上衣を彼は脱ぎ捨てた。  朝日に晒された肌には、たくさんの紅い花が散っている。  トールはその愛の(あかし)を愛おしそうに撫でた。 「そうだね。ボクらはまた出逢う。大丈夫…………捜すよ、イオ」  数日が経ち、旅支度を整えたトールが、瑠璃の谷に別れを告げにきた。  昼なお暗い森を抜け、高い崖の上から見下ろす。  谷じゅうはまだ、瑠璃の花に覆われていた。  あの日と同じように。

ともだちにシェアしよう!