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48.朝議の後
朝議の後は、執務室で公務を行うことになった。
執務室は城の中核部、その最上階にある。(表紙画像参照・右側メインエリア)長い廊下と階段を抜け、たどり着いたその部屋は高級なマホガニー材を使用した執務デスク、国旗、書棚、そして応接テーブルとソファが置いてあり、それでもなお面積に余裕がある。大きな窓からは広大な自然ーー国土が見えた。
「すごい眺めだな」
ハルはしばし、その光景に見惚れる。
そこへユキが近付いてきて、ふいに遠くの一点を指差した。
「ハル、あそこ見える?」
「え?なに?」
「婚礼の儀をした場所、こっから見えるよ」
「え?まじ!?」
「ほら、あれ」
「全然分からん」
言われてみれば確かに、あの丘にいた時、この城が見えたのだった。逆に言うと当然こちらからも丘が見えるはずなのだが……なにせ、緑が一面に生い茂っているため、そのなかからたった一つ、ちっぽけな丘を見つけ出すのは容易では無い。
ハルはユキにくっついて、指し示す方向を見ようとするが……
「だから、どれ?」
「こんもりした山が二つ並んでるでしょ、その横にさ、ちらっと丘が見えるじゃん」
「えぇぇ〜〜…?」
ふたりで窓辺に立って、うんうんと唸る。
木漏れ日の差す森、野花の咲き誇る丘。(三十一話参照)あの時、見かけた子どもたちは元気にしているだろうか?ハルは、『この赤い木の実、おいしいんだよ』と言って、木イチゴの実をくれた獣人の少女のことを想った。
「見えない…分からない…」
一生懸命になるあまり、窓に張り付きそうになっているハルを、ユキが後ろから抱き締め、「ほんとにかわいい」「ハルの頭ってなんか撫でやすい場所にあるよね」と言いながら撫で撫でした。
「おれの身長が小さいって言いてえの?175cm成人男子を馬鹿にすんなよ」
「うん、ごめんね」
「……すっごい訊きたくないんだけど……おまえ、身長いくつ?」
「197」
「fxxk」
「今は靴履いてるからもうすこし高いと思う」
「畜生おれだって…!!」
「背伸びしてるの?(笑)かわいい(笑)」
「おまえちょっと縮め!」
すこしでも自分を大きく見せようと、つま先立つハル。『俺の嫁なにしても可愛い』と鼻の下を伸ばすユキ。
ここが執務室であることを忘れて、しばしイチャつく二人…
「綺麗な丘だったよな」
「そうだね。また行こう」
「へ?何しに?」
「何って…散歩?」
「散歩するには遠くないか?」
「背中に乗せてあげる。俺の脚ならすぐ着くよ」
「やった!」
新婚ホヤホヤである。周りのことが目に入らなくても仕方がない。
二人の後ろで、老執事がニコニコしながらお茶を淹れていた。
「ユキ様、ハル様。お茶のご用意ができました」
執務室の応接テーブルに並べられていく茶器と茶菓子。
午後のお茶の時間には少し早いが…
温かく、香り高い紅茶を一口啜ると、すっと肩の荷が降りる気がした。
つい先程、朝議で、一世一代の大事なスピーチを済ませたばかりである。この日のために原稿も自分で用意し、何度も練習をした。ずっと緊張状態が続いていたハルは、ここでようやく一居心地が着いた。
老執事が焼いてくれたクッキーを齧りながら、ハルはぼそぼそと反省会をする。
「…なあ、さっきのスピーチ、大丈夫だったかな?」
「完璧だったよ。おれ感動しちゃった。散々練習に付き合った甲斐があった」
「そんな、お遊戯会のママと子どもじゃないんだからさ…いや、だから、議員のおじさんたちにちゃんと話通じたかなってのを訊きたいの!」
「通じたんじゃない?」
「軽いな〜〜」
「少なくとも俺は感動したね。俺のハルが…こんなに立派になって…(涙)」
「子どものお遊戯会見に来てるママかよ」
老執事が、ハルのティーカップにお茶を注ぎ淹れてくれた。
「勿論、非の打ち所もございませんでしたよ」
「そうかなあ」
「さっそくニュースで放映されておりましたよ。ご覧になられますか?」
「え!?」
「ばっちり録画したよ」
「やめろ!消して!!!」
「どうしようかな〜〜」
「頼む!!!」
「じゃあ、ちゅー10回で」
「ぐっ……うぅ………!!!」
「ふぉふぉふぉ……お二人は本当に仲がよろしいですなぁ……」
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