48 / 66

48.朝議の後

朝議の後は、執務室で公務を行うことになった。 執務室は城の中核部、その最上階にある。(表紙画像参照・右側メインエリア)長い廊下と階段を抜け、たどり着いたその部屋は高級なマホガニー材を使用した執務デスク、国旗、書棚、そして応接テーブルとソファが置いてあり、それでもなお面積に余裕がある。大きな窓からは広大な自然ーー国土が見えた。 「すごい眺めだな」 ハルはしばし、その光景に見惚れる。 そこへユキが近付いてきて、ふいに遠くの一点を指差した。 「ハル、あそこ見える?」 「え?なに?」 「婚礼の儀をした場所、こっから見えるよ」 「え?まじ!?」 「ほら、あれ」 「全然分からん」 言われてみれば確かに、あの丘にいた時、この城が見えたのだった。逆に言うと当然こちらからも丘が見えるはずなのだが……なにせ、緑が一面に生い茂っているため、そのなかからたった一つ、ちっぽけな丘を見つけ出すのは容易では無い。 ハルはユキにくっついて、指し示す方向を見ようとするが…… 「だから、どれ?」 「こんもりした山が二つ並んでるでしょ、その横にさ、ちらっと丘が見えるじゃん」 「えぇぇ〜〜…?」 ふたりで窓辺に立って、うんうんと唸る。 木漏れ日の差す森、野花の咲き誇る丘。(三十一話参照)あの時、見かけた子どもたちは元気にしているだろうか?ハルは、『この赤い木の実、おいしいんだよ』と言って、木イチゴの実をくれた獣人の少女のことを想った。 「見えない…分からない…」 一生懸命になるあまり、窓に張り付きそうになっているハルを、ユキが後ろから抱き締め、「ほんとにかわいい」「ハルの頭ってなんか撫でやすい場所にあるよね」と言いながら撫で撫でした。 「おれの身長が小さいって言いてえの?175cm成人男子を馬鹿にすんなよ」 「うん、ごめんね」 「……すっごい訊きたくないんだけど……おまえ、身長いくつ?」 「197」 「fxxk」 「今は靴履いてるからもうすこし高いと思う」 「畜生おれだって…!!」 「背伸びしてるの?(笑)かわいい(笑)」 「おまえちょっと縮め!」 すこしでも自分を大きく見せようと、つま先立つハル。『俺の嫁なにしても可愛い』と鼻の下を伸ばすユキ。 ここが執務室であることを忘れて、しばしイチャつく二人… 「綺麗な丘だったよな」 「そうだね。また行こう」 「へ?何しに?」 「何って…散歩?」 「散歩するには遠くないか?」 「背中に乗せてあげる。俺の脚ならすぐ着くよ」 「やった!」 新婚ホヤホヤである。周りのことが目に入らなくても仕方がない。 二人の後ろで、老執事がニコニコしながらお茶を淹れていた。 「ユキ様、ハル様。お茶のご用意ができました」 執務室の応接テーブルに並べられていく茶器と茶菓子。 午後のお茶の時間には少し早いが… 温かく、香り高い紅茶を一口啜ると、すっと肩の荷が降りる気がした。 つい先程、朝議で、一世一代の大事なスピーチを済ませたばかりである。この日のために原稿も自分で用意し、何度も練習をした。ずっと緊張状態が続いていたハルは、ここでようやく一居心地が着いた。 老執事が焼いてくれたクッキーを齧りながら、ハルはぼそぼそと反省会をする。 「…なあ、さっきのスピーチ、大丈夫だったかな?」 「完璧だったよ。おれ感動しちゃった。散々練習に付き合った甲斐があった」 「そんな、お遊戯会のママと子どもじゃないんだからさ…いや、だから、議員のおじさんたちにちゃんと話通じたかなってのを訊きたいの!」 「通じたんじゃない?」 「軽いな〜〜」 「少なくとも俺は感動したね。俺のハルが…こんなに立派になって…(涙)」 「子どものお遊戯会見に来てるママかよ」 老執事が、ハルのティーカップにお茶を注ぎ淹れてくれた。 「勿論、非の打ち所もございませんでしたよ」 「そうかなあ」 「さっそくニュースで放映されておりましたよ。ご覧になられますか?」 「え!?」 「ばっちり録画したよ」 「やめろ!消して!!!」 「どうしようかな〜〜」 「頼む!!!」 「じゃあ、ちゅー10回で」 「ぐっ……うぅ………!!!」 「ふぉふぉふぉ……お二人は本当に仲がよろしいですなぁ……」

ともだちにシェアしよう!