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47.スピーチ

壇上の、マイクの前に立つ。 広々とした議会堂。規則正しく並んだ椅子、そこに獣人の議員たちが詰めかけていた。それがしんと静まり返り、ハルに関心を寄せている。 原稿用紙が、小刻みに震えていた。何のことはない、自分の緊張で、言語を持つ手が震えているのだった。 足元がおぼつかない。自分が立っているのかすら分からないほど緊張するのは初めてだった。 (…落ち着け……) 老執事の言葉を思い出す。 『深呼吸なさってください。鼻から吸って、ゆっくりと口から吐きます…こういうものは、形から入った方が良いのです。美しい姿勢は美しい心を生みます。それだけで堂々として見えますよ』 (そうだ…) 深く深く、息を吸う。 (…大丈夫) (何度も練習した。この原稿通り、読むだけだ) ハルは姿勢を正す。 そして、もう一度大きく息を吸い… マイクへ向かって語りかける。 「我が王、皇太子閣下および議員、記者の皆様に対し、深い敬意を表しますとともに、このたび朝議で演説を行う機会をたまわりましたことを、謹んでお受けいたします」 自分の声が、マイクを経て議会堂へ響いていた。 獣人の議員たちの耳が、音を追ってぱたぱたと動いていた。議員は五〇代、六十代、それ以上の御老体もいる。どの議員も一筋縄ではいかなそうな人相をしている。 (彼らひとりひとりに、自分を受け入れて貰えるのか…それは彼らが判断することだ) (今はただ、おれの言葉を…決意を聞いて貰おう) 反響音が収まるのを待ち、続けた。 「世界史においてかくも傑出し、重要性を持つこの獣人たちの国で、私は偉大なる叡智、経験、および功績を持つ皆様が、私たちの門出を祝福してくださったことをとても嬉しく思います。私にとって、そして私の祖国にとっても、今日は特別な日です」 「…恐れながら、私の話をさせて頂きます。祖国にあって、私は皆様の国へ強い愛着の心を持ち、何十年もの間、敬愛をし、勉学に励んで参りました。あるご縁があって皆様の国を訪れた私に、皇太子殿下直々にお声がけを頂き、ご厚情をたまわりました。皇太子殿下と私の交流はそこから始まりました」 「幼き頃から、私は皆様の国につたない憧れを抱いておりました。実際にこの地を訪れ、文化に触れ合った今でも、その気持ちは変わりません」 「私、そして世界は、常に皆様の国のことを大変な名誉と誇り、そして規律を重んじる国民、歴史に裏打ちされた誇り高き伝統を持つ国民、不屈の精神、断固たる決意、そして秀でることへ願望をもって何事にも取り組む国民、兄弟愛や友人との揺るぎない強さと気丈さをあわせ持つ国民である、と認識してまいりました。これは神話ではなく、現実である、と私は謹んで申しあげたいと思います」 「皆様の国は美しく、手つかずの豊かな自然が現存しています。そしてその文化と伝統は、今も強靭に活気を保っています。今日のめまぐるしく変化する世界において、自然との調和を重んじる社会、勇気や品位を持ち、先祖の価値観によって導かれる社会、そうした思いやりのある社会で生きている、皆様のあり方を、私は最も誇りに思います」 「皆様のお役に立てるようなことを私から多くを申し上げられるとは思いません。それどころか、この瞬間、そして皆様から多くを得ようとしているのは、私のほうです」 「今この時より、私は皆様の国の一部となります。新たな責任を担う私を国民の皆様に認めて頂き、私は今後公人として、国の議論を刺激し、リードし、辺境にあるものに焦点を当て必要な援助が与えられるよう、我が王、そして皇太子殿下と共に、使命を全うして参ります」 「精霊が揺るぎない献身をもって国を守護されるように、私もまた私に与えられている残りの時間を通して、皆様の国の中心にある憲法の原則を守り抜くこと、そして皆様と国との絆をより強め、深めるために不断の努力を行うことを、今厳粛に誓います」 「私たちの国は、過去にも、そして現代も、リーダーであり続けます。このグローバル化した世界において、皆様の国は技術と革新の力、勤勉さと責任、強固な伝統的価値における模範であり、これまで以上にリーダーにふさわしいのです。そうした力を備えた私たちの国には、非常にすばらしい未来が待っていると、私は確信しております」 「…ご清聴下さり、ありがとうございました。皆様への祈りと、祝福の言葉をお伝えして、本日の私の話を締め括らせて頂きます」 「獣人の国に栄光あれ」 …ハルは群衆に向かって静かに一例し、王、そして伴侶となった皇太子に、深々と頭を下げた。

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