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第10話 怖くはないが、良いはずが無い!

「いい加減にしろ!」  再び唇が離れた時、俺は叫んだ。すると兼貞は、俺の耳の後ろを指先でなぞりながら、余裕たっぷりの笑みを浮かべた。 「けど――体、熱くなってきたんじゃないのか?」 「な」  ……認めたくないが、若干事実でもあった。実はキスをされる度に、力が抜ける代わりにじんわりと体の芯が熱を帯びていく気がしてはいるのだ。感覚で言うと、ムラっとしているに近い。 「気を抜くとな、抜かれた人間は、三大欲求が高まるんだ」 「は?」 「食欲、睡眠欲、性欲――食事は済ませてきた所だし、まだ眠くなるには早いだろ? そうなると、残るは一つだ」  それを聞いて、俺は殴られたような衝撃を受けた。  その間も、兼貞は俺の耳を擽り続けている。繊細な手つきで、優しく優しく俺の耳の後ろをなぞったり、耳の中に指先を入れたりするのだ。兼貞の吐息が俺の頬に触れる。艶やかな奴の髪の毛も、俺の顔に触れている。非常に良い匂いがする。 「は、離せ……」 「嫌か?」 「嫌に決まって……」 「そんなに真っ赤な顔で言われても説得力に欠けるけど」  それを聞いて、俺は自分の頬が熱い事に気がついた。そうしたら、更に赤面してしまった。まずい。このままでは、非常にまずい。 「良いから離せ!」 「やだ」 「俺に何をする気だ!」 「だから、絆を食べたいんだって。絆、美味しいから」 「冗談じゃない。もうキスはしたんだから、良いだろう!? 離してくれ!」 「全然足りない」  兼貞はそう言うと、俺の首筋をペロリと舐めた。思わずビクリとしてしまう。同時に、服の上から俺の左の乳首を弾いた。 「ちょ!」 「んー?」 「やだ、やめろ! どこ触ってるんだよ!」 「どこって?」 「っ……お、おい!」  服の上から、ゆるゆると兼貞が俺の乳首を摘んでいる。何ということだ! 普段は存在など意識しない場所なのだが――奇妙なほどに、ゾクゾクする。 「ン……っ……兼貞、ぁ」 「何?」 「離っ……ッ……ぁ、ぁ」  兼貞が再び俺の首筋を舐めた。すると今度は、そちらからまで、全身にゾクリと何かが走った。どういう事だ……。 「やだ……本当にやめ……」 「――うん。終わり」  俺が思わず怯えた声を出すと、兼貞が吹き出した。そして俺の上から退いた。それを確認した瞬間、一気に気が抜けて、俺は全身をソファに沈ませる。元々沈んでいたのだが、体重を全部預けてしまった。俺の体は汗ばんでいて、息が上がっていた。浅く呼吸を繰り返しながら、俺は生理的な涙が滲む瞳で、兼貞を見る。 「怖い事はしないから、安心してくれ」 「……」 「な? キスは怖くないだろ?」 「ン」  兼貞が俺にキスをした。俺はぼんやりとそれを受け入れた。舌を引きずり出されて甘く噛まれる。するとツキンと全身が疼いた。  ――そこで気がついた。なんで俺はキスを受け入れているんだよ! 「は、離……っ、ぁ……ッん」 「馬鹿な子ほど可愛いって真理だよな」 「ん、っ、ぁ、ハ」  兼貞が何度も何度も俺にキスをする。次第に俺はその感覚に夢中になっていき、口に与えられる快楽を体が追うようになってしまった。怖くはないがキスだってダメだと思うのだが、抗えない。力が抜けきった全身で、ただキスが与えてくれる感覚だけが鮮明だから、俺はそれを追う事に必死だった。お口が気持ち良いのだ。なんだこれ……。 「絆、もっと舌出して」 「ん……! っ、ぁ」  俺の舌を兼貞が吸う。そうされると体が一気に熱くなった。 「うん、良い子」 「兼貞……ぁ……」  熱を意識した途端、俺は全身が蕩けている事に気がついた。力の入らない体で、兼貞を見上げる。呼吸するだけでも、体が熱い。 「絆、勃ってる」 「!」  衝撃の事実だった。キスだけで俺は……反応してしまったようだった。羞恥に駆られて俺は涙ぐんだ。するとボトムスの上から、兼貞が俺の陰茎を撫でた。 「ん、ッ」  不思議と嫌悪感は無い。俺に触れている相手は兼貞だというのに……! 嫌悪しかない奴のはずなのに! 「でも、絆は嫌で、もう終わりなんだもんな?」 「……っ」 「無理矢理は好みじゃないから」  散々無理矢理キスをしたくせに、なんという言い草だろうか。俺は力なく兼貞を睨んだ。ただ眉根が下がってしまった自信がある。 「どうする?」 「……ぁ……」 「絆が続きして欲しいなら、抜いてやるよ?」 「……」 「どうして欲しい?」 「離……ああ!」  俺が拒否しようとしたら、少し強めに服の上から陰茎を刺激された。完全に俺のものは勃ち上がってしまった。卑怯だ! 「本当に離して欲しいのか?」 「う……ぁ……兼貞……ひっ」  そのままゆるゆると陰茎を衣の上から撫でられて、俺は震えた。ゾクゾクする。 「絆、言ってみな?」 「……」 「イきたい、って」 「……」 「イかせて、って、お願いしてみな?」 「……」 「そうしたら――気持ち良くしてやるよ」 「……誰がそんな事……離せ馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!!」 「子供か」  俺の罵倒に、兼貞が腹を抱えて笑い始めた。それを見ていたら、俺は少しだけ冷静になった。 「兼貞が悪いのに、どうして俺がお願いしなきゃならないんだ!」 「――ま、正論だな。だけど俺が構築したムードが一瞬でぶち壊されたな」 「兼貞の馬鹿! 俺はもう帰る!」 「どうやって? そのまんまで?」 「う」 「出したいだろ? 絆は出したい。俺は気が欲しい。Win-Winだ」 「は?」 「唾液より精液の方が、気を喰べやすいんだよ」 「な」 「飲ませて」  兼貞はそう言うと、俺のベルトを外しにかかった。力が入らない為、というよりも呆然としてしまい、俺は無抵抗でそれを見ていた。するすると服を乱され、俺の陰茎があらわになる。兼貞は俺の陰茎に片手を添えると、ペロリと鈴口を舐めた。 「っ、く」  ダイレクトな感覚に、俺は息を詰める。まずい。気持ち良い……。  口淫を始めた兼貞は、俺の筋を舐めあげては、唇でカリ首を刺激する。 「あ、あ、あ」  するとすぐに、俺の先端からは先走りの液が零れ始めた。それを舐め取りながら、兼貞が意地悪く笑う。それを見ていたら、カッと俺の頬が熱くなった。 「あ、出る……ああ!」  そのまま俺は呆気なく果てた。そして次の瞬間、猛烈な眠気に襲われた。 「ごちそうさま」  兼貞の喉仏が動いたのを見て、その言葉を聞いた直後、俺は意識を落とすように眠ってしまったようだった。

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