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第31話 クリスマス・イブ
その後、昼食を食べた。初めて足を踏み入れた兼貞家の食堂は、外観と同じで洋風だった。欧風のダイニングテーブルに向かい合って座った俺達が食べ始めると、自然と給仕の使用人さん達は姿を消した。人間ではないからオカルト的に消えたという意味ではなく、兼貞が『二人にしてほしい』と人払いをした結果である。
恋人同士になった俺達であるが、会話の内容にはあんまり今の所変化は無い。
「ケーキ、美味しいな」
俺はデザートというよりは、多分クリスマス・イブだから出て来たらしきブッシュドノエルを一瞥した。兼貞は微笑している。
「イブが記念日になったな」
「記念日……兼貞は、イベントとか、気にする方か?」
「絆との思い出は全部気にする予定」
「……ふぅん。元カノとかにも、そういう事を言ってきたのか?」
「いや? 俺は、恋人が出来たのは絆が初めてだけど?」
「え?」
「付き合いたいって過去に思った事が無い。人生で初めて、恋人にしたいって思ったのが絆」
「な」
「あ、絆の過去の話は聞かなくて良いから。嫉妬する自信しかないから聞かなくて良い」
笑顔の兼貞の言葉に、俺は唇を震わせる。俺だって過去には恋人なんかいなかったが……。ただ前に兼貞は、『気を味見しても記憶を消せる』というような事を口にしていたし、何より巧みだから、童貞ではないんだろうなと漠然と考えてしまった。
食後は、二人で、俺に新しくあてがわれた客間へと向かった。
……俺は、正直、ド緊張していた。俺が部屋に一度戻ると言ったら、自然と兼貞がついてきたのだが、なにせ巨大なベッドがある洋室だ。入ってすぐ、後ろからそっと兼貞に抱きしめられた瞬間、俺は緊張から体をガチガチに固くしてしまった。
「絆」
「な、なんだよ!」
「意識しすぎ」
「っ」
兼貞が吹き出したものだから、俺は真っ赤になって、首だけで振り返り、兼貞を睨みつけた。
「す、好きな相手と、ベッドがある部屋に二人になって、意識しなかったら変だ! 俺は普通だ!」
「――好き、か。自然とそういう事を言ってくるの、本当犯罪級に可愛い」
「可愛いっていうな!」
「期待には応えないとな」
そう言うと、兼貞が俺の服を開け始めた。俺は目を見開く。どうしたら良いのかと混乱していると、首元に口づけを落とされた。ツキンと疼いたから、キスマークをつけられたのだとすぐに分かった。思わず後退ろうとすると、腰を抱き寄せられる。そして唇に深々とキスをされた。舌を絡めとられる。
「んン」
何度も角度を変えて、俺達はキスをした。そうして気づくと、体を軽く押されていて、後ろにあったベッドに俺は押し倒されていた。のしかかってくる兼貞を見上げる。
「絆。絆を俺に頂戴?」
「……っ」
真っ赤になったままで、俺はどこか獰猛に見える兼貞の瞳を見る。いつも優しい兼貞の瞳が、今は獰猛に見える。肉食獣じみた輝きがある気がして、俺はゾクリとした。恐怖というより、色気に惹きつけられたのだと思う。
「……嫌だったら、部屋に入れない」
「どうだろうな? 絆は、隙だらけに見える」
「入れない!」
「じゃあ、それも約束だ。俺以外の前で、無防備になるな」
兼貞は心配性だ。男同士だというのに、と、考えたが、世界には色々な変態がいるから、気を付けようと俺は一応再決意する。そうしている間にも、兼貞に服を乱されて、気づくと俺は、一糸まとわぬ姿になっていた。
兼貞もまた上半身の衣服を脱ぎ捨て、ベルトを緩めている。
それを見ていると、兼貞が端正な唇をぺろりと舌で舐めた。その姿が艶っぽく見えた。男前――兼貞のために存在する言葉にすら思える。
「っぁ……」
兼貞が左手で俺の左胸の突起を弾き、唇では右の乳頭を挟んだ。そしてチロチロと舌先と、左手の親指を動かし始める。胸に甘い刺激が広がり始めたが、過去の『気』のやりとりの時とは異なり、俺の意識も体の状態も清明だ。ダイレクトに感じる優しい刺激に、俺は緊張から涙ぐむ。
普段乳首なんて、さほど意識はしないのだが、兼貞に愛撫されていると、ジンジンと疼き始めた。じわりじわりと快楽がしみ込んでくる気がして、俺の呼吸も上がり始める。
「真っ赤になった」
「い、言うな!」
気づくと兼貞の指摘通り、俺の左右の乳首が、朱く尖っていた。
「元が綺麗な色だけど、色っぽくなりすぎ」
「な」
「絆の体、全部綺麗だな」
普段だったら、外見を褒められたら俺は喜ぶ。確実に喜ぶ。だけど今は、羞恥の方が強い。だから顔を背けた時、兼貞がベッドサイドにあった小瓶を手繰り寄せた。
「今の体なら、SEXは辛くないはずだけど、最初だしじっくり慣らそうな」
「……ひっ」
冷たいローションまみれの兼貞の指が、俺の後孔から中へと入ってきた。人差し指の第一関節まで入ったのが分かる。思わず俺は、ギュッと締め付けてしまった。痛みはないが、緊張が強い。しかし兼貞は、軽く指先を動かしながら、第二関節、そして指の根元までを俺の中に入れた。入り切ると、振動させるように指全体を動かし始める。
「ぁ……ぁァ」
必死で息をすると、声が一緒に出てしまい、俺は恥ずかしくなった。
それからすぐに、二本目の指を挿入された。俺は両方の膝を折り曲げて、時折ローションの量を増やしながら俺の中を解す兼貞を見ていた。
「絆、辛くない?」
「だ、大丈夫だ……っ、ん」
「優しくするからな」
言葉の通りで、兼貞の指先は、本当に丁寧で優しい。その二本の指先が、ある一点を掠めたのは、それから少ししてからの事だった。
「ああ!」
「――ここか?」
「あ、やだ、そこ待ってくれ」
「待つ?」
「あ、あ、変になる」
兼貞の指先がある個所を刺激すると、俺の陰茎に快楽が直結した。気づくと、俺の陰茎が持ち上がっていた。
「前立腺」
「ぁ……」
「変じゃない。気持ちいい、だろ?」
「ああ、ぁ……っッ……んン――!」
兼貞は俺の前立腺ばかりを執拗に嬲り始めた。その度に、背筋を快楽が走り抜けるから、俺は震えながら、目を潤ませる。確かに気持ちが良いけれど、自分の体が自分の者ではなくなりそうで怖い。しかし、やめろと言ったら、兼貞はやめてしまう気がした。俺だって、兼貞にも気持ち良くなって欲しいし……一つになってみたい。だから、怯えは押し殺し、俺は必死で吐息する。
「んン、あ――!!」
その後、指が三本に増えた。そして俺の中をより押し広げる動きに変わる。
暫くの間、そうして俺は内部を解された。じっとりと俺の体は汗ばみ、髪の毛が肌に張り付いてくる。涙が滲む瞳で、俺は兼貞を見る。兼貞は、相変わらず、獰猛な眼をしていた。
「絆、挿れる」
「う、うん、ぁ……ああ!」
指を引き抜いた兼貞が、そそり立つ陰茎を俺の菊門にあてがい、一気に雁首まで挿入した。俺が背を反らした時、兼貞が俺の左の太股を持ち上げて、そのまま根元まで突き立てた。指とは全然違う、熱く硬い質量が、深々と俺を穿つ。
「力抜けるか?」
「無理、あ、あ、熱い! や、っ、ンん――!!」
「嫌か?」
「あ、違う。違……あ、あ、あああ、待って、あ、あ」
俺は快楽が怖くなって、かね貞の体に両腕をまわす。すると兼貞が腰を揺さぶった。
満杯の中に、刺激が響く。初めての交わりに、俺の思考が真っ白に染まる。
「あ、あ、兼貞ぁ」
「絆、っ……悪いな、俺も止められない」
「止めなくて良い、違、っ」
「ん?」
「好きだ、兼貞が好きだ」
「! どうして絆は、俺を煽るんだよ。最高かよ!」
「ああああ!」
兼貞の動きが激しさを増した。そのまま俺は理性を飛ばし、ただ喘ぐしか出来なくなった。ローションが立てる水音と、肌と肌がぶつかる音が交差している。俺は兼貞の体にしがみついて、与えられる快楽に耐えるしか出来ない。
「や、ァ、気持ち良い、っ……ん――!」
「締めすぎ。俺も気持ち良いけどな、ああ、もう。余裕が消える」
余裕なんて、俺には最初から無いから、兼貞が何を言っているのかよく分からない。
激しく俺に打ち付けた兼貞は、それから少しして、俺の中に放った。
その衝撃で、俺も前を触られたわけではないのに、射精してしまった。
「っぁ……」
兼貞が陰茎を引き抜く感触を、俺は寝台に沈みながら知った。
ぐったりとしていると、俺の目元の涙を、かね貞が指先で拭う。
「ごめん、絆」
「ん……」
「もってかれた。というのはともかく――全然足りない」
「っ」
「もう一回」
「え、あ……」
「挿れる」
すぐに硬度を取り戻したらしい兼貞が、再び俺に挿入したのは、本当に直後の事だった。
そのままこのクリスマス・イブの午後、俺達は散々交わり、気づくと俺は意識を飛ばしていたのだった。
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