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第8話 俺は、2-Sの生徒になった。

 クラス分けは――全て普通科とは聞いていたが、何でも暗黙の了解があったらしい。  Sは親衛隊持ち等の人気者クラスである。A~Dが成績順の普通クラスだ。そしてEは成績を問わず不良のクラスである。不良というのは、素行が悪い生徒の事だ。俺は思う。親衛隊に入っている生徒の五分の一程度は、素行が悪いので、全員Eクラスでも良いだろう。親衛隊は、統制が取れている所と取れていない所で、モラルに差がありすぎる。  さて、2-S。  初日のSHRのみ、生徒会役員も風紀委員会メンバーも全員問わず出席だった。自己紹介の場である。今年は俺も、所属を言える。  まずは、副会長から自己紹介をしていた。 「僕は菱上夏向と言います。生徒会で副会長を務めています」  穏やかに微笑した副会長……王子様のようである。色素の薄い茶色の髪が、キラキラと輝いて見える。瞳の色も同色だ。腹黒だと噂されているが、ほぼ初対面の俺から見る限り、ごく普通である。常に笑っているというから、噂通り作り笑いなのだろうが、作り笑いであっても穏やかな表情は、対人関係を円滑に進める秘訣であると俺は思うし、別にどうでも良い(興味が無い)。続いて挨拶をしたのは、書記だった。 「油條……悠介……書記……」  ボソ、ボソ、ボソ。そんな感じだった。大きな目をしていて、大型犬のような印象を受ける。だから寡黙ワンコ書記なのだろうか? それとも非常に身長が大きいからか。190cmに迫ろうとしている気配だ。本当、高身長は絶滅すれば良いのに。しかし俺は、風紀委員会での見回りの最中に、こやつが花壇の花に水をあげていたのを見かけたので、心象はとても良い。花好きに悪い奴はあんまりいないような気がする(あくまでもイメージだが)。  続いて、双子の兄――瑞浪宵が立ち上がった。この双子は、宵の明星と明けの明星から名付けられたのだという。 「瑞浪兄の宵です。よろしくねっ! 庶務だよー!」  ハイテンションで挨拶し、すぐに宵は座った。入れ替わりに明が立ち上がる。 「双子の弟、明ですっ! 同じく庶務ー!」  それだけ言うと、明も直ぐに座った。この二人は見分けが付かないとよく言われているが、悪戯ばっかりしているので、何度も厳重注意してきた身としては、すぐに見分けがつく。宵は、視線を斜め左上に動かす癖があるのだ。明は斜め右下だ。考え事をしている時や、嘘をつく時等、その視線の動きが散見する。本人達には絶対に癖があるとは教えてやらないが、風紀委員会の中では既に皆が知っている。  その後、何人も自己紹介をしていき、俺の隣の席まで進んできた。そこは、誰あろう……俺様何様生徒会長様こと遠園寺采火の席である。何と俺と遠園寺は隣の席になってしまったのだ。デート券以来、ほぼ一言も話さずに来たため、かなり気まずい。もう忘れてるだろうか? 忘れていてくれ。 「俺様の名前と顔を知らない愚民がいるとは思わねぇが、一応名乗ってやる。遠園寺采火、生徒会長だ。俺を楽しませろ」  ニヤリと口角を持ち上げて遠園寺が言った。Sクラスはみんな人気者のはずなのだが、ここでも「「「「「きゃー!」」」」」という歓声が起きた。この後で自己紹介するって、すごく気まずい。しかし今年も俺はトリだった。理由は、今回は席順自由だったのだが、俺は生徒玄関で新入生の誘導をしていたため、予鈴ギリギリで到着してしまい、「恐れ多い!」という理由でぽっかり空いていた、遠園寺の隣しか席が残っていなかったからである。最後尾には今年も机が二つしかない。クラス編成時に、人数が偏っているのが原因のようだ。均等な人数分けでは無いのである。 「……槇原郁斗、風紀の委員長をしている。よろしく」  俺は無難に挨拶した。すると「「「「「きゃー!」」」」」と歓声が上がった。クラスメイト達、きっと空気を読んでくれたんだな。誰だって、遠園寺の後での沈黙はきついって分かるもんな!  と、こうしてSHRは終わった。担任は、今年も俺は同じで、ホスト風の教師の東城先生だった。東城先生は、生徒会の顧問もしているらしい。  二時間目からは、新学期テストなので、これも欠席出来無い。一応寮では予習・復習もしてきたし、俺は精神集中の時間と決めているので、何とはなしに両手を組んだ。そして目を伏せようとした時だった。 「余裕そうだな、風紀委員長様は」 「余裕だからな」  俺はサラっと答えてしまった。我ながら嫌味だったかもしれないと思い、声の主である遠園寺を慌てて一瞥する。すると遠園寺が、ギンと擬音が放たれそうな勢いで俺を睨めつけていた。忌々しいものを見る表情だ。  ……ちょっと振られたくらいで、ここまで敵対心をむき出しにしなくても良いだろうが。心が狭いやつだな。身長ばっかりでかいのか。器を大きくするべきだ。 「今年こそ勝ってやる」 「己に打ち勝つことを目標に掲げろ」 「説教か?」 「――いいや。今年の後半からは、受験勉強だって視野に入れなければならないし、進学先によって集中して学ぶ箇所も変わるだろう? 井の中の蛙大海を知らずとは言うが、学園の中だけで競っていても、それは所詮学園での成績に過ぎない。内申書の点数を上げて推薦を狙うには良いかもしれないが」  俺は口論をするのが面倒だったので、正論を適当に並べて誤魔化すことにした。すると遠園寺が舌打ちした。チッ、って、すごく苛立っている感じの舌打ちだった。こいつは、ドMの変人から、ドSの俺様に進化中のようであるから、あまり怒らせたくない。  風紀委員会で噂だけは、接触が無かった間も、嫌というほど耳にしていたのである。  さて、テストが始まり――無事に放課後が訪れた。  俺は風紀委員会室へと向かいながら、目下の悩みである、新入生の委員会への勧誘について考えた。結局昨年は、俺以外の外部からの加入は無かったし、持ち上がり組からも、中等部からの生え抜き以外は誰もいなかった。今年も、中等部からの風紀委員のメンバーは続投と決まっているが……数が少ないのだ。卒業した三年生の半数しかいない。増やしたい。  この日の風紀委員会の定例会議では、どのような条件で勧誘するかを話し合い、解散となった。俺は寮に戻り、新しい部屋を見た。風紀委員長特権で、俺は今年は、完全なる一人部屋を手に入れた。やっと特権の意味が分かったとも言える。特権は、例えば昨年から甘受しているものであるならば、授業免除などだ。 「生徒会と風紀委員会の権力が強いって、すごい学園だよな」  改めて呟きながら夕食をとって、その後俺は寝た。

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