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第7話 その後は順調だった。

 その後は順調だった。俺は、期末試験も無事に乗り越えて、夏休みを迎えた。久しぶりに帰宅すると、槇原さんも母も喜んでくれた。弟も生まれていた。 「おかえり」  夜――。  母と弟が早く眠ったので、俺は槇原さんと二人になった。すると改めて言われた。胸が温かくなる。俺が笑顔で頷くと、槇原さんが紅茶を淹れてくれた。そして、言った。 「学園はどうだね?」 「風紀委員になりました」  他に報告すべき事は特にない。テストの結果等は、全部自宅にも手紙で通知が行っているらしく、夕食の席でも散々褒められたからだ。  俺の言葉に、槇原さんは最初は笑顔だったが――少しするとその笑顔が硬直し、次第に汗をかき始め、最終的に目を真ん丸にして俺を見た。 「本当かい?」 「は、はい……」  俺はこんな風に表情を変えて驚愕している槇原さんを、初めて見た。まずかっただろうかと悩んだ。そういえば、学閥・人脈・その他……大丈夫なのかな? と、今更不安になってきた。その時だった。 「すぐに全校生徒の全情報を手に入れるべく動く事にするよ」 「――へ?」 「ぜひ使って欲しい。私は、在学時代は情報屋として名を馳せていてね。今は情報セキュリティの会社を世界展開しているが――胸が躍るな」 「え、ええと……」 「安心して良い。今の所、私に逆らえる日本の人間は非常に少ない。君の在学中に、まずい子がかぶる可能性もとても低い。風紀委員としての矜持を持って頑張るように」 「は、はい……」  槇原さんは、キラキラした瞳になってしまった……。  こうして、寮に帰る頃には、俺は膨大な量の情報を手に入れていた。なお、「生の学内情報も必要だね」との言葉で、俺は、『現在の情報屋』を紹介された。なんでも澪標学園には、代々情報屋がいるらしい。 「意外と槇原社長気が付くの遅かったね」 「……常磐」 「俺がバックアップするからには、槇原には怖いもの無し!」  ……。こうして、俺は常磐の新しい一面を知ってしまったのである。何という事だ。  さて、夏休み明けには、再び抱きたい・抱かれたいランキングの最新版が出た。しかしながら、風紀委員のメンバーは除外との事で、俺の名前は出ていなかった。出ない方が嬉しい。  休み明けテストも無事に乗り切った俺は、体育祭に備えた。秋には他に文化祭もあった。だが、これらは見回りをしていたら終了していた。平穏だった。一日デート券みたいなものも無かった。良かった。そのまま冬休みまでは、毎日見回りをして過ごした。一つ一つ見れば忙しかったし、次第に俺は書類仕事まで回されるようになったが、授業を免除されているのだから頑張ろうと決意した。  こうして――クリスマスが来るのと同時に、冬休みも訪れた。俺は帰宅し、常磐の事を槇原さんに話した。すると、楽しそうに笑われた。 「君が風紀委員になったと知ってからは楽しくて、久しぶりに自発的に情報収集をしたから、もう聞かなくても大丈夫だよ」  ……。  この年のクリスマスは、笑顔の母と健やかな弟に癒された。  お正月には家族四人で初詣へと出かけた。シェフさんがお節を作ってくれたのだが、非常に美味だった。  冬休みの宿題なども直ぐに終わったので、俺は寮へと戻ってからは、再び風紀委員としての日々を開始した。目立った出来事といえば、生徒会総会が開かれて、遠園寺が生徒会長、夏川が会計となり、支倉先輩が大歓喜していた事だろうか。  そんな支倉先輩の卒業式が近づいてきた。 「次の委員長は、槇原で」 「「「「「「異議なし」」」」」  俺には異議しか無かったが、満場一致で、次の風紀委員長は俺に決定してしまった。俺は知っている。みんなやりたくなかったのだ。押し付けられたのだ……。次に三年生になる風音先輩がやりたくないので副委員長を続投すると譲らなかったのも大きい。 「槇原、前代の風紀委員長として頼みがある」  卒業式の日――支倉先輩が俺を呼び出した。 「はい」  非常に真剣な顔をしていたので、俺も真面目な顔をした。今思えば愉快な支倉先輩ではあるが、俺を導いてくれた人である事に変わりはない。 「転入生がきて、王道イベントがあったら、動画を撮って送って欲しい……」 「あ、はい」  最後まで、支倉先輩は、支倉先輩だった。  支倉先輩は、外部進学するとの事で、この日旅立っていった。夢は、教師になって、この学園に赴任する事だと言う。心の中で応援しておいた。  ――この時は、正直言って、「王道転入生なんて来ないだろうなぁ」と、俺は思っていた。来年も、何せ行事は二度目であるし、委員長になってしまったとはいえ、平穏に終わると思っていた。  こうして、新学期が訪れた。  入学式――俺は、壇上に立った。そして述べた。 「俺に迷惑をかけるな」 「「「「「「きゃー!」」」」」」  俺は、前年の原稿をそのまま読んだだけである。考えてみると短くて良いよな、このセリフ。大歓声は、風紀委員になると付き物らしい。誰が風紀委員長でもきっとこの歓声は起きるのだろう。何というか、『風紀委員会ブランド』的な空気だ。親衛隊がいなくとも、風紀委員には歓声が付きまとう。正義の味方風で格好良いからなのかもしれない。  なお、俺の前に挨拶をした遠園寺采火――こちらの人気は、現在不動のものとなっている。この学園の王者としての貫禄もある。さらに奴は背が伸びた。本気で滅べば良いのにな。俺は身長が174cmのままなのに、奴は186cmになってしまった。どういう事だ。  遠園寺人気はすごくて、全校生徒版の抱かれたいランキングでも一位なのだという。俺様生徒会長――……これは、俺が風紀委員になってすぐに読ませられた小説に出てきた言葉だ。それが似合っているように思うのは、一人称が俺様だからなのかもしれない。俺の前では昨年泣いていたが、そんな気配、今では微塵もない。  というより……なんと噂では、親衛隊を日替わりでセフレにしているという。今の所現行犯で捕まえたという報告は無いが、暗黙の了解となっている寮の自室内の事は不明だ。現在の風紀委員会では、遠園寺采火は一応の監視対象である。  監視といえば、夏川もだ。下半身ゆっるゆるのチャラ男会計の親衛隊副隊長から、本人が会計に進化してしまった。しかし夏川も現行犯は無い。噂である事を祈ろう。良い奴だと思うが、風紀委員の仕事は増やさないで欲しい……とも、思うし、俺的に、夏川はチャラい振りをしているだけで、根は違う気がする。だが噂であっても監視対象だ。  なお、他の生徒会メンバーは、腹黒副会長として既に噂されている、菱上夏向(ひしがみかなた)と、寡黙なワンコ書記とあだ名されている、油條悠介(ゆじょうゆうすけ)、生徒会庶務で双子の、瑞浪(みずなみ)――(めい)と、(よい)である。  本当、支倉先輩に読ませられた小説本にそっくりの生徒会であるが、一年間を振り返るに、遠園寺は俺様というほど俺様なのか俺には疑問だし、夏川もチャラくないような気もしている。まぁ、良い。  こうして、俺の高等部二年生生活――風紀委員長としての日々が幕を開けた。

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