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第6話 新入生歓迎会と一日デート券

 さて、俺が風紀委員会に入っての、最初の学内行事が開催される事になった。  新入生歓迎会だという。持ち上がり組ばかりで、今年の外部入学は三名らしいのだが、仕切り直しとの事だ。 「今年も鬼ごっこに決まったそうだ」  生徒会からの通達を、支倉先輩が発表し、副委員長がホワイトボードに大きく『鬼ごっこ』と書いた。新入生が逃げて、在校生が追いかけるらしい。鬼、多くね? 「新入生歓迎会は、毎年強姦被害が多発する。皆、注意して見回りをするように」  風紀委員のメンバーは、新入生であっても参加を免除され、見回り役になるそうだ。なお、鬼ごっこの景品は、『一日デート券』だとか『昼食一緒券』だとかいう品らしい。用途がいまいち不明だ。  俺は不可思議な行事だなと思いながら、強姦多発ポイントを頭の中でメモしていった。  こうして、会議は終了した。  さて――当日。  俺はバシバシと摘発していった。昨年度までに繰り返しバージョンアップされてきたのだという強姦被害多発マッピングには、隙が無い。さすがは風紀委員会。有能! その日俺は、三十八組を摘発した。そこで丁度、最後まで逃げ切った一人が発表された。 「最後まで逃げ切った一位は、遠園寺采火!」  大歓声に包まれている。鬼ごっこにも順位があるのか。新しいな。そう考えていると、遠園寺が景品を受け取った。 「俺は一日デート券を貰った。別にデートしてやりてぇわけでは無いが、槇原郁斗! 顔を貸せ!」 「「「「「「きゃー!」」」」」  大歓声でかき消されたが、俺は自分の名前が呼ばれたような気がして、思わず虚ろな瞳をしてしまった。景品の内容を頭に入れていたのだが、デートは休日に行われるのだ。休日は明日だ。今日、こんなにも働いたのに、明日遊びに行かなければならないのか? 無理、寝たい。疲れた。俺が絶望的な顔をしている脇で、支倉先輩は鼻血を吹き出しているし。なんだこの人。  ――こうして、俺は景品になってしまった。  翌朝、校門前に朝の七時集合だというので、俺は頑張って校門に向かった。  そこから先は、遠園寺財閥の車に乗っていくそうだ。  この日ばかりは、学外へ出ても良いらしい。良いのか、本当に? それで。しかしこの学園は生徒の自主性を重んじるため、生徒会が絶大な権力を握っているらしいから、誰も文句は言えないようだ。 「俺様を待たせるとは良い度胸だな」 「まだ待ち合わせの三十分前だぞ?」 「別に待ち遠しかったわけじゃねぇから勘違いするなよ」 「そうか。それで? 何処へ行くんだ?」  早く行って、早く帰ってきたい。そう願いながら、俺は茂みの方からこちらを観察している支倉先輩の視線に気がついてしまったので、二度見してしまった。何してるんだろう……。 「俺様に任せておけ」  そう言うと遠園寺は、俺を車に促した。素直に乗り込む。直ぐに走り出した車の中で、遠園寺が言った。 「中間テストこそ負けないからな」 「ああ、もう、そんな時期だな」 「槇原、お前、苦手教科は?」 「特にない」 「……気に入った」 「遠園寺は?」 「俺様に苦手科目などあるはずがないだろう」 「へぇ」  そんなやりとりをしていると、街についた。連れて行かれたのは、プラネタリウムだった。 「本日貸切の看板が出ているぞ?」 「俺様が貸し切ったからな。当然だろうが」 「そ、そうか……」  さすがはセレブリティ! 俺とはスケールが違ったよ……。  俺と遠園寺は、その後暫くの間、二人きりで、星空を見ていた。  俺も星は嫌いじゃないが、昨日の今日で疲れているから、眠くなってしまった。  しかし――次に向かった昼食の場で、俺の目は冴えた。あんまりにも美味しいフレンチが出てきたのである。人生でこんなに美味しい肉を食べたのは、槇原さんと母の披露宴の時以来だ。 「所で、槇原」 「悪い遠園寺。俺は今、肉にしか集中出来そうにないんだ」 「……ま、まぁ、喜んで貰えたんなら良かったが……」  俺は全力で味わった。  マナーは幸い、母に叩き込まれていたので困らなかった。槇原さんにも褒められた事があるほどだ。パクパクと俺は食べ続けた。そうして完食した時、遠園寺の視線に気がついた。 「ええと、なんだった? 何か言いかけなかったか?」 「お、おう。お前、好きな奴……いるか? 俺様以外で」 「へ?」 「付き合ってやっても良いぞ」 「ん? 何処に?」 「だ、だから……この俺様が、恋人になってやっても良いと言ってるんだ」 「? 別になってくれなくて良い。俺は、もう今となっては同性愛者を否定する気は無いが、俺自身にはそちらの願望は無いからな」 「この俺様を振る気か?」 「そうなるな。悪いな」 「後悔するなよ?」 「泣くなよ……ごめん。だって、付き合えないものは付き合えないからな……」  遠園寺が泣き始めてしまった。なんだか心苦しいが仕方が無い。  こうしてその日のデートは終了した。帰りの車内は気まずかった。 「それで?」  翌日。  二人きりの風紀委員会室で、鼻血をティッシュで塞き止めている支倉先輩に、俺は捕まった。なんでも不埒な行為が行われなかったかの確認のため、詳細にデート内容を話せ、だとかと、言われてしまったのだ。しかし俺は、遠園寺が哀れなので、告白の事は言わなかった。俺もこの頃になると、支倉先輩は『生びーえる好きのフダンシ』という生き物だと、風紀の副委員長達に教わっていたので、鼻血への免疫は出来つつあった。なお支倉先輩は、俺と遠園寺が校門で待ち合わせをしたくだりで鼻血を吹いた。  取り合えず当たり障りの無い事を語ってから、俺は校内の見回りに出かける事とした。最近では、俺は腕っ節が強いので一人で回っても良いと言われている(主に副委員長に)。  風紀の副委員長の、風音(かざね)先輩は、とても切れ者の美人だ。男に対して美人というのもどうかと思うが、他に表現が見つからない。 「入学したばっかりだけど、もう卒業したくなってきた」  ぼやきながら、俺は校舎を歩いた。  なお、中間テストでも一位は俺だった。いぇーい!

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