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第26話 その後
春休みの間は、俺と遠園寺は、お互いの部屋を行き来しながら、受験勉強と――愛を深める行為に時間を費やした。寮内だから、暗黙の了解……として、良いだろう。
こうして入学式が訪れた。
生徒会長挨拶で青崎が壇上に立った時は、本当にそこにいるのが遠園寺で無い事が不思議でならなかったが、青崎の口から聞く「俺を楽しませろ」という言葉も、中々新鮮で良かった。俺もまた例年通り、「俺に迷惑をかけるな」と挨拶した。相変わらず会場はすごい熱気で、歓声が絶えない。
新入生代表挨拶は――遠園寺飛鳥(とおえんじあすか)という生徒が行った。中等部時代は生徒会長だったらしく……遠園寺家の次男、即ち采火の一つ下の弟だそうだ。聞いた所によると、俺達の代の、俺が聞いていなかった新入生挨拶をしたのは、遠園寺采火だったらしい。
「弟か」
入学式後の最初の週末、俺は遠園寺の部屋で呟いた。すると遠園寺が大きく頷いた。
「兄弟仲は良好だが、あいつは俺様に似て、俺様だから気をつけろ」
「風紀を乱しそうなのか?」
「まだ子供だからな。俺様が一年の頃よりも、飛鳥の方が子供かもしれない」
「それは要注意だな」
脳裏でメモしながら、俺は腕を組んだ。入学式で見た限り、遠園寺に比較的顔は似ていた。ただ目元が違う。遠園寺の弟の方は、若干タレ目だった。
なお――それは杞憂に終わり、この年は非常に順調に進んだ。俺と遠園寺は早々に推薦で内部進学が決まったし、各行事もスムーズに行われていった。どんどん、俺と遠園寺に残された時間が減っていく。俺はそればかりを寂しく感じていた。
季節がすぎるのは本当にあっという間で、気づいた頃には再び冬が訪れていた。
遠園寺が、俺に大きな封筒を渡してきたのは、そんなある日の事だった。
もうすぐ冬休みである。
「これはなんだ?」
「一緒に住む物件の候補だ」
「!」
俺は本当に同棲するとは思っていなかったので、驚いて目を見開いた。遠園寺の部屋で、慌てて中身を確認する。そこには高級なマンションのパンフレットが並んでいた。
「無理だ」
「そんなに俺様と暮らすのが嫌なのか?」
「そうじゃない。この金額の家賃は、折半でも俺には払えない」
大学生になったらバイトをして自立する予定でいた俺は、慌てて首を振る。出来れば、バイト代から家賃は出したい。それが無理だとしても、少しでも多く、自分で稼いで払いたいのだ。
「全て遠園寺財閥の傘下のマンションだ。不動産もやっていてな。家賃は不要だ」
「そ、そういうわけには……」
「良いんだよ。将来、働いて俺様は財閥をより大きくして倍返し以上の成果を出す。何も問題は無い」
そう言って笑った遠園寺は、無駄に格好良かった。
この年のクリスマスは、一緒に過ごす事にしていたので、俺は二十六日まで、遠園寺家に泊まる事になった。去年の約束が、無事に果たせる事になったのだ。パーティーを終えた二十三日の夜……俺にあてがわれた客間で……俺達は、イブになる頃、顔を見合わせた。
「俺の部屋にいたら、家族や使用人が心配するんじゃないか?」
「問題無い」
「本当か?」
「おう。今日と明日は、二十四と五は、お前と二人きりで過ごすと話してある」
微笑した遠園寺を見て、俺もまた両頬を持ち上げた。そのまま、触れ合うだけのキスをした。遠園寺家の寝台はふかふかで、俺はその上で膝をつきながら、シーツを握る。そんな俺に、遠園寺が後ろから挿入した。
「ン……あ……ぁ、ァ……」
遠園寺が、焦らすようにゆっくりと抽挿する。俺の体は、既に遠園寺に馴染んでいる。遠園寺の形をよく覚えこまされた体は、次第に汗ばんでいき、俺の息が上がり始めた。じっくりと動く遠園寺は、俺の腰を優しく掴むと、ギリギリまで引き抜いては最奥まで貫く。
「ぁ……ぁ、ァあ、ン……っ、あ、あ」
段々遠園寺の動きが早くなっていく。肌と肌が奏でる音と、ローションの水音が混じって室内に響く。俺はシーツを握り締めたまま、快楽に喘いだ。激しく打ち付けられる内に、俺は達して、白液がシーツを汚したのが分かった。……これでは、遠園寺家の人に気づかれてしまう。
「まずい、汚れた……っ、あ、待ってくれ、まだ動くな」
「何もまずい事は無い。俺様は家族にお前の事を話している」
「え」
俺はその言葉で、我に返った。達したばかりだというのもあったが、驚きのあまり萎えた。
「ずっと一緒にいよう」
「それは、俺だって一緒にいたいけどな……遠園寺は、跡取りだし、その……」
いつかは別れが来るのだろうと、俺はこれまで漠然と考えていたのだ。だからずっと一緒に、それこそ毎年クリスマスを共に過ごしたいというのは本音だったが、あくまでもそれは幸せな夢の一つだと捉えていたのである。
「必ず長男が継ぐという決まりじゃねぇし、まぁ俺はあとを継ぐが……俺のあとは、別に俺の子供である必要も無い。俺は、郁斗がいればそれで良い」
「あ……あああ!」
遠園寺が再び動き始めた。感じる場所を容赦なく突き上げてくる。俺は言われた声を脳裏で必死に咀嚼しつつ――とても嬉しくなっていた。歓喜と快楽の狭間で、俺の全身がどんどん熱くなっていく。
「ん……ぅ……ぁ、ァ、ァァ……ゃ、あ! あああ! あ、ン――!」
そのまま感じる場所を容赦なく責め立てられて、遠園寺が放つと同時に、俺は二度目の射精を果たした。
――このようにして。
卒業式までの間も一瞬で、途中の生徒会選挙では、遠園寺飛鳥が次の生徒会長と決まったりしたのだが(抱かれたいランキングも学年別一位だったが、実力で選挙を勝ち抜いていた。応援演説をしたのは、采火だった)……別れの日が訪れた。
その日は桜が満開だった。
卒業式を終えた俺と遠園寺は、一緒に退場し、解散となってから、二人で桜の木の下に立った。思えば、母の再婚と槇原さんの勧めから偶発的に進学する事になった澪標学園での生活は、決して悪いものでは無かった。
「郁斗」
「ん……っ」
周囲には人気もあったが――俺は、桜の下で、遠園寺のキスを受け入れた。もう俺は風紀委員長では無くなったのだし、最後に一度くらい校則を破っても構わないだろう。風紀の次の委員長は、時任を指名してきた。時任は、風紀委員も選挙制に変えたいと俺に話していた。風紀委員のみんなで、俺の送別会を開いてくれたのは、先日の事である。
柔らかな遠園寺の唇の感触に浸りながら、俺は烟る桜吹雪の下で目を閉じる。
「またな、郁斗」
俺の腰に腕を回したままで、遠園寺が言った。
「ああ」
頷いた俺は、微笑した。一緒に暮らす家へと越すのは、来週を予定している。本当にすぐだ。槇原さんや遠園寺のお父さんは、何も言わなかった。大学生活を頑張るようにと応援してくれただけである。遠園寺いわく、二人共俺達の関係を知っているというし、俺もそう思うが、まぁ、良いだろう。
こうして、俺の澪標学園での生活は幕を下ろした。非常に幸せな、三年間で、思い出も沢山出来た。今後も俺は、頑張って、遠園寺と共に生きていきたいと感じている。
【完】
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