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第32話 気づいたら

 気づいたら、朝が来ていた。  次に気が付いたら、日が高くなっていた。  その繰り返しで、何度も何度も俺は意識を飛ばし、最終的には夕暮れになっていた。無性に喉が渇いていたが、起き上がるのも億劫で、いいや、正確には体に力が入らず、手を持ち上げるのも厳しくて……また、寝た。 「クラウス」 「ん……」  優しく名前を呼ばれた今回は、もう繋がってはいなかった。体が綺麗になっている。 「……!」  俺はやっと現在の状態を、正確に認識した。  慌てて上半身を起こす。  シュトルフと、体を重ねてしまった。まずそれを考えて、俺は瞬時に真っ赤になったが――その後、チラリと窓の外を見て、とっくに日が落ちている事を理解してからは、青褪めた。昨日夜から本日の日中にかけて、俺は完全に抱き潰された。ちょっと絶倫すぎでは無いのだろうか?  体を重ねた喜びと羞恥みたいなものが、遥か彼方に吹っ飛んでいった。  こんなものが毎日続いたら、俺は死んでしまうだろう。 「体は大丈夫か?」 「控え目に言っても、ダメだな」 「辛いか?」 「辛くはない……ただ、ええとその、とりあえず水が飲みたい」  俺が訴えると、シュトルフが片手でグラスを持ち、俺に差し出した。受け取って一口飲めば、喉が癒えていく。 「何か食べた方が良い」 「誰のせいで俺は朝と昼を抜く事になったんだろうな?」 「――覚悟を決めてくれと言っただろう?」 「だからってちょっとヤりすぎだろうが!」  ここはしっかりと抗議しておかなければならないだろう。今後の体に関わる。 「これからは、一回につき最大二度にしてくれ!」 「――これからも良いんだな」 「あ」 「二度」 「えっと……」  無意識だったため、今度こそ俺は赤面してしまった。思わず片手で顔を覆う。本当は両手を用いたかったが、グラスを持っているので仕方がない。プルプルと手が震えてしまった。何を言っているんだ、俺は……。  その時、シュトルフが吹き出す気配がした。恐る恐る視線を向けると、珍しくシュトルフが笑っていた。あまりこういった笑顔は見た事が無いので新鮮だ。 「良かった、嫌がられなくて」 「そ、その……」  ダメだ、何を言えば良いのか分からない。これ以上続けたら、墓穴を掘る気しかしない。俺は再度水を飲み込む事で、必死に熱い頬と胸中を鎮めようとした。  その後、俺は風呂に入った。そして着替えてから、俺はシュトルフと合流して食堂へと向かった。だいぶ体力は戻っていたが、まだ気怠い。しかし空腹だったのも事実で、この夜は大きな海老を食べた。  なお食後は、昨日と同じように寝室へと向かった。俺達が部屋を出ている間に、掃除がなされ、シーツが変えられていた。居た堪れない……。 「シュトルフ」 「なんだ?」 「今日は何もするなよ?」 「……」 「なんで黙るんだ!」 「期待されているのか悩んだ」 「ち、違う!」  俺が声を上げると、ソファに座り長い膝を組んだシュトルフが、また楽しそうに笑った。今日のシュトルフは、表情がいつもより豊かだと思う。 「とにかく! 寝る!」  宣言した俺は、ベッドがある部屋の扉に触れる。するとシュトルフも立ち上がり、歩み寄ってきた。そして俺が扉に手をかけた時、不意に後ろから抱きしめた。ふわりと良い匂いがする。 「一緒に寝よう」 「睡眠という意味で良いんだろうな? シュトルフ? 分かっているな?」 「そこまで繰り返されると、やはり期待されているのか悩んでしまうな」 「睡眠だけだ!」  俺は扉を開けながら、軽く振り返って、シュトルフを睨んだ。シュトルフは相変わらず笑っている。微塵も冷酷には見えない。どうしてこんなにも機嫌が良さそうなんだろう。  そうして俺達は、同じ寝台に入った。隣から俺を抱きしめるようにしたシュトルフが、まじまじとこちらを見ている。目を見つめ返すと、シュトルフが微笑した。 「おやすみ、クラウス」 「ああ。おやすみ」  俺は頷いてから瞼を閉じて――気づくとすぐに眠っていた。 「ン」  唇に柔らかな感触がしたのと、瞼越しに陽の光を感じたのは、ほぼ同じ時だった。うっすらと目を開ければ、シュトルフの顔が正面にあった。朝の日差しが、窓から差し込んでいる。 「おはよう」  シュトルフの声を聞きながら、俺は上半身を起こした。既にシュトルフはベッドから降りている。 「おはよう、シュトルフ」 「ちょうど起こそうと思っていたんだ。そろそろ朝食だ」 「そうか」  予定だと、今日まではお休みだったはずだ。無論、言葉通りではなく、この空き時間には明日からの視察に関する知識や情報を頭に入れておく事が必要だろう。シュトルフにも馬車の中で幾度かそれとなく聞いてみたが、俺はまだまだツァイアー公爵領地の事をあまり知らない。  そんな事を考えながら俺も寝台から降りて、身支度を整えた。  隣の衣装部屋で簡単に着替えてから、ソファに座っているシュトルフのもとへと戻った。 「行くか」 「ああ。お腹が空いた」  シュトルフの言葉に俺が頷くと、シュトルフもまた頷き返してきた。  この日の朝食のメインは卵料理とじゃがいものサラダで、とても美味だった。  俺はこの城の料理が好きになれそうだ。

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