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第38話 友達

 招待客に関しては、シュトルフと俺の双方が、分担して招待状を作成したり、直接声をかける事になっている。  シュトルフと寝室で体を重ねてから数日後の朝、俺は目を覚ましながら、今日は何人か王宮に招いていたのだったと思い出した。その前には招待状の作成の仕事もある。  ただ、この部屋で体を繋いだせいで、起きる度にドキリとしてしまうから、困った事態になってもいる。どうしてもシュトルフの手や体を思い出すからだ。  俺は煩悩を沈めようと、朝ではあったが一度湯浴みをしてから服を着替え、朝食を取った。  さて、招待状の作成だ!  本日は、残りの三通を書く。これらは、『ユアを巡っていた攻略対象』への招待状だったものだから、つい後回しにしてしまった。  一人目は、俺の一学年上の先輩、ジョンパルト侯爵への招待状だ。既に爵位を継いでいる。ジョンパルト侯爵は、在学中、とにかくユアに甘かった。だが別段付き合っていたわけではなく、侯爵の片想いだった事を俺は知っている。ユアを巡る争いでは、比較的俺は有利な立ち位置にいたと思うが、ユアは誰かを選ぶ事は無かったし、俺も今ではどこに恋心があったのか謎だ。ユアには申し訳ないが。  なおそのユアは平民なので、今回の夜会には招かれない。  二人目は、俺の一学年下の後輩、エウティミオ伯爵子息のアランだ。アランは、元気がよく、子犬みたいだった。ユアと共にいる事が多かった俺の事も、『先輩・先輩!』と、王族である事をそれほど気にしないような素振りで慕ってくれた。俺が気さくに話せる数少ない後輩でもあった事を記憶している。ダイクの同級生だ。だが俺は知っている。アランはダイク派の貴族の筆頭であるエウティミオ伯爵家の跡取りであり、密やかに俺の動向をダイクに報告していた。歯牙にかけていなかった俺だが、今思えば怖い。  さて三人目は、俺のご学友という立場でもあった、宮廷魔術師団長の子息であるプリニオだ。プリニオは、俺の同級生で、王立学園に入学する前から、一緒に家庭教師に習う事もあった友人であり、何事も無ければ、将来は俺の片腕となる予定もあった。だが、俺は降嫁するので、その未来は無くなった。決して悪い奴ではないが、一番盲目的にユアを愛していたのは間違いない。ユアと出会ってからは、俺とプリニオは何かと対立する事もあったほどだ。恋のライバルという側面があったからだ。  だから気まずいので、プリニオには招待状を出す事にした。  俺の配下になる予定だった人物は、他に二名いる。こちらを、午後に王宮へと招いている。俺が立太子しない事で、こちらの二名も、将来の身の振り方が変わってしまった事は非常に申し訳ない。  こちらの一人目は、騎士団長の子息である、ライノだ。ライノは既に卒業と同時に騎士団へと入団した、俺の同級生でもある。乳母兄弟でもある。俺の気心の知れた親友といっても差し支えはないだろう。  もう一人は、医療魔術師を統括する医官長の子息のエルネスだ。エルネスもまた、俺のご学友という立場だった。一応ライノもご学友ではあったが、ライノは勉強よりも剣の鍛錬が好きだったため、よくすっぽかしていた。なので入学前は、基本的に俺とプリニオとエルネスで勉強をしていた。そして入学後もきちんとご学友としての務めを果たしてくれていた唯一の人物がエルネスである。  さて、昼食後のお茶の時間。  王宮の鐘が三度ほどなった時、ライノとエルネスが、王宮へとやって来た。打ち合わせの場所は俺の部屋だ。最初は皆で挨拶をし、手土産を受け取ったりした。 「しっかし驚いたなぁ」  座るなり、ライノが言った。俺は曖昧に笑うしか出来ない。 「俺にくらい言えよ。びっくりした」  率直に述べたライノは、朗らかな表情で俺を見た。 「だけど、想いが叶って良かったね」  その隣に座っていたエルネスが、物静かな声で述べた。二人は俺を非難するでもなく、双方祝福してくれた。それに安堵しつつ、俺は夜会の詳細を伝える。すると二人共、頷きながら聞いてくれた。 「ちなみにその、他の同級生のみんなは元気か?」  何気なく俺は尋ねた。招待状を出している者が多いから、夜会で顔を合わせるわけではあるが、事前に聞いておきたかった。するとライノが腕を組んだ。 「そういえば、プリニオは幸せそうだったぞ。なんでもクラウス殿下に勝ち目がないと思っていたら、次の休息日の一日目と二日目も、両方ユアとデート出来る事になったと喜んでいたからな。この前、ばったり街で会ったんだ」  それを聞いて、俺は若干肩の荷が降りた。なるほど、プリニオとユアが上手くいきそうなのか。ある意味その二人も俺は振り回してしまったので、幸せになるのならば気が楽になる。 「春だね。俺も恋がしたいよ。父上が身を固めろと煩いんだけど、俺には許嫁はいないし、恋愛も特にしてないから」  エルネスが溜息をついた。エルネスは昔から、勉強の方に興味があるようだったので、なんとなく納得もした。エルネスもまた、既に王宮にて医療魔術師見習いとして働いている。 「そうか。それと、二人には悪い事をしてしまったな。俺の部下になるはずだったのに」  改めて俺が頭を下げると、二人が顔を見合わせた。それからどちらともなく吹き出した。ライノは兎も角、普段はあまり表情を変えないエルネスも微笑している。 「親友の幸福を祝えない男はいないぞ?」  ライノが快活に笑った。 「俺もライノも、自力で出世は可能だよ。それだけの実力があるから、クラウス殿下の配下になるべく期待されていたんだしね」 「その通りだ。俺もいつかは騎士団長を目指す」 「俺は医官長になりたいわけではないけど、求められたら頑張ろうかなとは思うよ」  二人の温かい言葉に、俺は思わず両頬を持ち上げた。胸が満ちた。  こうしてこの日の友人との打ち合わせは、恙無く終わった。

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