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第43話 俺の希望
執事に先導してもらい、二人で階段をのぼる。目的の部屋の前で、鍵を開けてから執事は下がった為、中には俺とシュトルフの二人で入った。ここまでずっと人目があった為、二人きりになるのは本日初めてだ。
新しい壁紙の匂いがする。まだ家具は何もないが、床もよく磨き上げられていた。
「狭いか?」
「俺には十分な広さに思えるぞ」
素直に返答すると、シュトルフが小さく何度か頷いた。
奥には扉があり、位置的に俺の私室の一つとなる部屋からも直通出来るようだと理解する。結婚後は、普段いる部屋のほかに、書斎やこの部屋など、いくつかの俺専用の部屋が設けられるというのは、書面で見ていた。案内されたのは、ここの他は、先日聞いた寝室の隣の一室のみだが。寝室は、共同だ。それぞれの部屋にも寝台はあるが、俺としては末永く二人で眠りたいものである。睡眠という意味でも、体を重ねるという意味でも。
……。
俺は、チラチラとシュトルフを見てしまった。シュトルフは壁を指さしながら、どこに何を置いたら良いかを語っているが、俺の頭にはさっぱり入ってこない。位置など何処でも良いし、正直こだわりはない。それよりも五日ぶりに会えた事が嬉しすぎて、俺の鼓動は煩くてならない。
「クラウス?」
「ん!? な、なんだ?」
「その……ぼーっとしているように見えてな。どうかしたのか?」
「あ、いや……べ、別に」
「意見があったら言ってくれ。あくまでもこれは草案だからな。クラウスの希望を優先する」
目が合うとシュトルフが、じっと俺を見てゆっくりとそう口にした。俺を気遣ってくれるシュトルフの声音が、優しく聞こえて困ってしまう。
「俺の希望、か」
現時点において、俺の希望は一つだ。
――寝室に行きたい!
しかしながら、俺は自分からシュトルフを誘った経験は無い。どのように口に出せばいいのだろうか。そもそも、目的はこの部屋の確認なのだし、寝室に行く口実も無い。
「……」
「クラウス?」
「……」
情けない事に言葉が見つからなかった為、俺はシュトルフの手に触れてみた。するとシュトルフが驚いたように短く息を呑んだ。
「……そ、その。食後のお茶は美味しかったな」
「それは何よりだが……――その言葉、都合良く取るぞ?」
シュトルフがギュッと俺の手を握り返してきた。どうやら意味が通じたらしい。是非都合良く取ってもらいたい!
「クラウス殿下、明日のご予定は? こちらで把握している限り、特に無いようだったが」
「無い」
「今夜はツァイアー公爵家にご滞在されては?」
「そうする」
「――王宮には伝令を送らせる」
俺が簡潔に答えると、シュトルフの声音が明るくなった。俺の心拍数は比例して煩くなっていく。
「待っていてくれ」
その後シュトルフが部屋を出ていった。外で控えていた執事に指示を出している様子だ。一人部屋で待ちながら、俺は勇気を出して良かったと内心で心を躍らせていた。
寝室へと向かったのは、それからすぐの事だった。
「クラウス」
――寝室に入ってまっすぐ窓の前に向かった俺は、背後で響く施錠音と己の名を呼ぶ声を聞いていた。
「シュトルフ、会いたかった」
「俺も同じだ」
「――降嫁の持参品の話が無かったら、会えなかっただろう?」
振り返りながら俺はそう告げ苦笑した。するとシュトルフが小首を傾げた。
「そんなものは口実だ。お前の公務が無い日取りを待っていただけだ」
「え?」
「会うために、様々な口実を用意するくらいに、俺はクラウスの事ばかり考えている」
「打ち合わせじゃなかったのか?」
「今する必要性があるかといえば、否だろう?」
「それは、そうだけどな」
「ただ、並行して片づけておいて悪いという事は確かに無いが」
そう言ってシュトルフが笑った。俺は嬉しくなってしまった。頬が熱を帯びてきた事を感じながら、歩み寄ってくるシュトルフを静かに見やる。
「抱きしめても良いか?」
「聞かなくて良い」
「そうか」
シュトルフの腕が俺に回ったのは、その直後だった。俺は温かい腕の感触に浸りながら目を伏せ、幸せだなと思った。シュトルフは俺が欲しいものを存分に与えてくれる。言葉も、体温も、愛情も。
頬に触れられたので瞼を開けると、すぐに唇を奪われた。キスをする許可は、求められなかった。それで全然構わない。シュトルフがしたいようにしてほしい。シュトルフはいつも俺を優先してくれるが、俺だって出来る事があるならばシュトルフを尊重したい。
その後は服を脱がせあうようにして、抱き合いながら寝台へと転がった。
「ぁァ……」
先日抗議した首のキスマークの位置に再び吸い付かれ、俺は思わず眼を細くした。
「見える位置はやめてくれ」
「消えないようにずっと痕を残したくなってしまった」
「おい」
「悪い」
そうは言いつつ、シュトルフは悪びれもない様子で笑っている。本当に表情が豊かになったなと思う。そのまま舌先で俺の皮膚をなぞったシュトルフは、俺の胸の突起を唇で挟んだ。そしてチロチロと乳頭を刺激してきた。ゾクゾクとした快楽が俺の背筋を這い上がっていく。
「んン……っ」
もう一方の手で陰茎を扱かれて、俺は鼻を抜けるような声を出してしまった。胸と同時に刺激され、穏やかに昂められていくと、体がじっとりと汗ばみ始める。
シュトルフがそばにいると思うだけで幸せになれるから不思議だ。
俺は快楽を欲しているわけではなく、純粋にシュトルフのそばにいたいのだと、もう強く理解している。
「好きだ、シュトルフ……ぁ、っ」
「俺もクラウスが好きだ。言わなくてもそろそろ伝わるだろうとも思うが、何度でも言いたい。言わずにはいられない」
同じ気持ちだから、俺は思わず小さく笑ってしまった。中々気持ちを心に秘めておくというのは辛いし、何度でも伝えたい。
「ぁア……っ」
「一度出せ」
「んんン――!!」
そのままシュトルフの手で、俺は果てさせられた。
肩で息をしていると、俺の呼吸が落ち着くのを見計らってから、シュトルフが指先を俺の中へと進めてきた。俺の出した白液をまとった指が、すんなりと入ってくる。
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