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5.替え玉

〜騎士視点〜 ずっと妻を娶ろうとされなかった皇帝が隣国のロペス公爵家の1人息子であり天使の落とし子とまで言われたアデレード=ロペスに求婚したと耳にした時、騎士団全員がその場で沸き立ちお祭り騒ぎになった。 周りは皆アデレード様の顔を見た事はなかったが、俺は1度だけ高位貴族の主催パーティーに呼ばれた際にその姿を見たことがあったから、我らが皇帝とアデレード様が並ぶ姿を想像してお似合いだと本当に心から喜んだのだ。 なのに… 馬車の中で何かが倒れる音が聞こえて、まさかアデレード様が!?と慌てて中を確認すると、見たこともないあまり顔のいいとは言えない男がアデレード様の衣装を着て倒れているのが目に入った。 その瞬間、替え玉を用意されたのだと一瞬で悟った。 「この者はアデレード様では無いぞっ!!」 仲間の騎士に声をかけると、俺の声を聞いて駆けつけた皆も倒れた男の顔を確認して顔を歪める。 不運なことに既に国へと入国してしまっているために、早馬で城へとこのことを知らせて皇帝の指示を仰ぐこととなった。 「…こんな者をアデレード様の代わりにするなど……せめて顔が良ければ…」 「しかし、もう婚姻は決まったことだろう。どうするんだ」 「おい、とりあえず話してないでこいつをどうにかしよう。見た限り熱があるようだし、解熱用の薬草を飲ませておけばいいだろう。きっと皇帝はかなりお怒りになられるだろうな…」 俺は渋々その男を抱えると仲間騎士が敷いてくれた布にその男を寝かせた。 「…軽すぎないか?」 思わず呟く。 アデレード様の身代わりということは16、17くらいの男のはずだ。それなのに目の前で目を閉じているこの男は細く頼りない見た目をしているせいなのかもう少し幼くも見えた。 抱えた時、あまりにも軽すぎたため別の意味で心配になったものの、アデレード様だと謀ったことに対しての怒りの方が強く、ついぞんざいに扱ってしまう。 そうこうしているうちに、早馬が帰ってきて、馬から降りた伝令兵が伝令を読み上げた。 曰く、身代わりとはいえアデレード=ロペスとして嫁いできたためそのまま城に迎え入れるが婚姻は先延ばしにし、この者は離れに住まわせるということだった。 「お怒りだな」 「あの皇帝の選んだ嫁を替え玉とすげ替えたんだぞ。戦争仕掛けてもおかしくないくらいだぜ」 軽口を叩きながら、顔色が少し良くなった男を馬車へと再び乗せて道を急ぐ。 美しいアデレード様が来ると思っていた俺たちは一気にやる気をなくして、気力も削がれたまま城の中にある離宮へと男を連れていったのだった。

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