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13.甘い色香

彼の手の微かな振動を感じ取れなくなったことが寂しくて埋めていた顔を上げると、この短時間で何度も見た彼の金色の瞳がふやけるように甘く赤みを帯びて僕のことを見ていることに気づいて、また全身が熱くなる。 止まった手が僕の顎を撫でるように添わされると、彼の手も酷く熱を帯びていることに気がついた。 「きっと君という花に狂わされたのだろうな」 柔らかな声音なのに、その声を聞くと何故だか獰猛な獣の顔がチラついて微かにビクリと肩を揺らした。 まるで触れているところから溶かされそうな気がして、僕はやっぱり逃げようと腰を浮かせる。 「まだ逃げる気かい?」 椅子の座面が広いおかげなのか僕は彼に跨る形で座面に膝を付いて腰を浮かせていた。 そんな僕を下から彼が見つめてきて、小さく穏やかな声で非難される。 僕の長い黒髪が彼の顔に微かにかかって、その髪を手に取った彼はただじっと僕から視線を外さずにその髪にキスをした。 ぶわっと何かが全身を駆け抜ける。 時が止まったように感じたその一瞬の出来事が頭から離れなくて、熱に浮かされた身体はその体勢のままピクリとも動いてはくれない。 「もしかして私のことを煽っているのかな?」 「ち、違いますっ…その……っ…アデルバード様に触れられると…ここがキュッてなって、なんだか怖いんです…」 僕は言いながら自分の左胸に手を添えた。 そうしたらアデルバード様がもっともっとふやけるような瞳で僕のことを見てきて、下から触れるだけのキスをしてくれた。 それにまた胸が痛くなって、何かの病気じゃないのかって心配になる。 腰に腕を回されて、可愛いって微笑まれると考えていたこととか不安なこととかがどうでも良くなる気がして、ぺたりとそのまま、また彼の膝にお尻を付けた。 「お菓子を食べていたのかい?」 テーブルに並べられた、すっかり冷えてしまったそれをアデルバード様が1つ摘む。 なんて名前なのか分からないけれど、四角いピンク色をした砂糖菓子を彼がそっと僕の口元に宛がって、僕は思わず雛鳥のようにそれを口に含んだ。 「美味しい?」 「…美味しい…です」 さっきまでは僕なんかがこんなに贅沢なものを食べていいのかって戸惑って飲み込むことすら難しく感じていたのに、アデルバード様が次から次に僕の口元にお菓子を運んでくるからそんなこと考える暇もなく咀嚼して飲み込むを繰り返す。 「そんなに美味しそうに食べていると私も味が気になってしまうな」 アデルバード様はそう言って、僕が咥えているクッキーに空いている片側からかぶりついた。 短いそれは片方からかじればすぐに消えて、アデルバード様の唇が僕の唇に簡単に触れてしまう。 「ご馳走様」 触れた唇を離した彼が自分の唇を舐めて、そのなんとも言えない色気たっぷりの仕草に僕は茹で上がるんじゃないかってくらいまた熱を放出した。

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