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17.生い立ち

〜アデルバード視点〜 手に持っていた書類を乱雑に卓上に投げると、手帳に今後の予定を書き込んでいるルートヴィヒに視線を向けた。 「リュカのことでなにか進展は?」 「こちらに資料が。ですが、どうやら彼は戸籍登録が成されていないようなのです」 「確かライヒトゥムでは花人が産まれた際は必ず国に報告する義務があるのではなかったか?あそこは子供が少ない上に花人の人身売買が横行していた時期があったからな」 「ええ…しかし、見事に今まで隠していたようです。世間では美しい一人息子を溺愛する優秀な公爵として有名ですから」 ルートヴィヒの言葉に鼻で笑って返すと、この間渡された手紙の内容を再び確認する。 リュカを守るためにも婚姻を急がなければならないとは分かっている。そのためにもリュカには私の近くに居て欲しかったのだが、やはり私が離宮に移り住むしか無さそうだと考えを巡らせた。 手紙の差出人はロペス公爵。 中には、本物のアデレードを渡す代わりにリュカを返せという内容がそれはそれは丁寧に長々と遠回しに書かれていた。 調べによれば、どうやらご自慢の一人息子が婚約者のいる王子と婚礼前に契りを交わそうとしてしまったらしく大変な騒動になったらしい。 勿論責任を取らされたロペス公爵家は領地の1部を没収された上に、アデレード自身は事の重大さを全くと言っていい程分かっておらずその後もやりたい放題の末、尻拭いに奔走していた公爵家は信用をなくし首が回らなくなって来ているようだ。そこで、高位貴族のオールド家にリュカを嫁がせるため、連れ戻す算段に出たというわけだった。 「本当にいい度胸をしている」 ぐしゃりと手の中の手紙を握り潰すと、それを無造作にテーブルの上に転がした。 オールド家の当主といえば異常性癖の持ち主で有名な人物で、しかも歳は50歳をとうに超えている。噂では娶った妻が何人も暴行された末に亡くなっていると耳にしたこともある。 そんな人間に実の息子を送り出そうとする親の気持ちなど理解したくもない上に、リュカをそんな人物の所にやろうとしていることにありえないほどの怒りを感じていた。 大方、本物を渡すといえば私が簡単に言うことを聞くと踏んでいたのかもしれないが、侮られたものだと薄ら笑って、ルートヴィヒに隣国の国王に手紙を送るように指示を出した。 内容は勿論こちらが怒っているという物だ。 戦争でもチラつかせれば、あの腹立たしい公爵家を更に窮地に追いやるくらい簡単な事だ。 「そうだルートヴィヒ、養子の件はどうだ。良さそうな家はあったか」 「はい。こちらにリストが在りますので陛下が直接お選びください」 それを受け取ると私は少しだけ気分を良くして、ざっと内容に目を通した。

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