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25.ちっぽけな勇気
家族が欲しい。
エレノアの言葉を聞いて強くそう思った。
でも、長年培ってきた臆病さや卑屈さが僕のその感情をギリギリの所で押し止めていて中々言葉を形作れない。
「…会ったばかりの僕にどうしてそんなに優しくしてくれるの?」
どうして?どうしてなの?ただひたすら疑問ばかりが浮かぶんだ。裏があるんじゃないか、家族になって本当に大丈夫なのか。
まだ経験してもいない先のことを想像して、怖がって、いつも僕はただ震えている。
けれどエレノアはそんな僕に向かってあっけらかんと言い放ったんだ。
「兄弟が欲しいって言ったじゃない」
「…それだけ?」
それだけの理由でそんなに優しくしてくれるの?
「そうよ。だって、欲しいんだもの、優しくて素敵なお兄様。欲しいものはちゃんと口に出すのよ。私は自分に正直に生きているの」
彼女はきっと僕と正反対の子なんだ。
自分に正直で、明るくて、とても強い子。
それを我儘だと言う人もいるのかもしれないけれど、僕にはそれが凄くかっこいい生き方に思える。
「僕は花人だけど、全然綺麗でもないし華奢でもない…開花期すらまだ来てないんだ。出来損ないだって思わない?」
「思わないわ。だって私は花人でも天人でもないのよ?当事者にしかその苦しみも悲しみも、何がダメなのかも分からないわ。それに、花人の方ってとても気取っていて嫌なイメージだったのだけれど、お兄様は朗らかで気取った所なんてなくて好感が持てるもの」
エレノアは僕に片手を差し出すと、だから私のお兄様になってくれるでしょ?って首を傾げながらまた聞いてくれた。
その白くて細い美しい手を掴むことを一瞬戸惑って、けれどアデルバード様の大丈夫って言葉を思い浮かべたらちっぽけな勇気が湧いてきて、そっと彼女の指先を優しく掴んだ。
「どうして指?」
吹き出すみたいにエレノアが笑って、僕も釣られて笑う。
「…まだこれだけしか掴む勇気が持てなくて…」
ちっぽけな勇気だから…。
いつかその手を自分からしっかりと握って自慢の妹だよって言ってあげられるだろうか?
「ふふ、今はこれで我慢してあげるわ」
手を繋いだ所からお互いの体温が伝わってくる。
彼女は僕の妹で、僕は彼女の兄になるんだ。
彼女の体温を感じながら、もっと強くならないとって心に決める。この儚げで優しさの滲み出る手の持ち主を守れるように僕も努力していかないとって心の中で強く思った。
まだ、国民を守るだとか、そんな大それたことは考えられないけれど、妹を守る兄くらいにはなりたい。
戸惑っていた僕を導くように手を引いてくれた彼女を一生大事にしよう。
「エレノア、僕の妹になってくれてありがとう」
「お兄様ったら恥ずかしいわ」
微笑みあって、その後はお互いの話を沢山した。僕の生い立ちを聞かれたから話をしたら彼女はボロボロ涙を流して僕のことを抱きしめてくれた。
その抱擁を受けながら、家族って温かいものなんだって今初めて知ったんだ。
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