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27.プレゼント

エーデルシュタイン公爵家に行った日から数ヶ月後に、僕はついに彼等の家族に迎え入れられた。エレノアは顔合わせの日から週2日程、宮殿に遊びに来ては僕の話し相手になってくれる。 今日はエレノアは来れない日だったから、1人でのんびりとサンルームで寛ぎながら、アップルパイを頬張っていると、アデルバード様が入ってきて僕にゆっくりと近づいてきた。 「おはようリュカ。ああ、口についてしまっているよ」 アデルバード様は僕の隣に腰掛けると、僕の口元に指を這わせながらくすりと笑った。彼の指先にはアップルパイのカスが付いていて、羞恥心に駆られて近くにあったナフキンでそれを拭き取ろうとしたら彼は何を思ったのかそれを口に運んで、甘いねって呟いた。 顔に一気に熱が上がって、相変わらず彼は心臓に悪いなって内心で思う。 「今日はリュカにプレゼントがあるんだよ」 その言葉に反応して、下げていた顔を上げると彼は自分の脇に置かれていた本を僕に手渡して満面の笑みを浮かべた。 「星が欲しいと言っていたからこれを君に」 恐る恐る本を開くと、僕は思わず感嘆の声を上げた。中には沢山の星々の絵とその種類が書かれていてとても興味がそそられる。けれど、字が読めない僕にはこの本の半分も意味を理解できないだろうと思って悲しくなった。 「…字が…」 「ねえ、リュカ。もし、君が望むなら教師をつけることも出来る。学んでみる気はあるかい?」 僕は本の背表紙を撫でながら、彼の言葉に耳を傾けた。 この本を読んでみたい。 今までは気にはなっていても何かを学ぶということに強い興味はそそられなかった。けれど、アデルバード様がこの本を僕にプレゼントしてくれて、初めて字が読めないことに歯痒さを感じたんだ。 僕は強い興味に引かれるように、アデルバード様の瞳を見つめながら、字を学びたいと答えた。ロペス公爵家にいた頃は望んでも学ぶことは出来なかったけれど、今なら彼の力を借りて学ぶことができる。 今の僕ではエレノアを守ると誓っても何も出来やしないし、アデルバード様がどんなに素敵な本をくれたとしてもそれを理解することは不可能だ。 だから、もっともっと僕は努力しないといけない。 「学びたいです」 「リュカがそう望むなら私は叶えるだけだ」 引き寄せられて至近距離で微笑まれると、僕もそれに応えるように微笑み返して、どちらともなくお互いの唇を合わせた。 いつの間にか自然と彼を受け入れている僕は、今まだにこの気持ちの名前すら分からなくて、学ぶことでその答えも知れるだろうかって何となく思う。 「…ありがとうございます」 「いいんだよ。リュカが喜んでくれると私も嬉しいんだ」 そう言って本当に嬉しそうに笑うアデルバード様の胸の中に閉じ込められながら、好きだなって思う。 好きで、大好きで、彼を僕だけの物にしておきたくて、彼の隣に並べるような人間になりたいと強く思う。 「アデルバード様、僕頑張ります」 「無理だけはしないで」 そう言っておでこにキスをされて、彼の甘い香りに包まれながらしばらく抱きしめあっていると、心地が良すぎて少しずつ眠くなってきた。 何とか寝るのを耐えていたけれど、ついに耐えきれなくなって船を漕ぎ始める。 「こら、そんな所で寝たら襲われても文句は言えないよ」 アデルバード様が何か言っていたけれど眠気に負けてしまっている頭では彼が言っている言葉は上手く聞き取れなくて、うーんって意味もなく相槌を打ちながら彼の胸の中で目を閉じた。 「…無防備すぎるのも困りものだな」 そんな僕を抱きしめながらやっぱりアデルバード様がなにか呟いている気がした。

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