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28.人一倍

学びたいと決心した次の日から、僕は今まで無為に過ごしていた時間を使って勉強をするようになった。 僕のために来てくれた先生と勉強を始めて既に3日程が経っている。 まずは文字の読み方と書き方からゆっくりと覚えていこうってアデルバード様が言ってくれて、僕もそれに甘える形で自分のペースで勉強を始めようと思っていた。 いたんだけど… 「全くっ!また間違っていますわ。どうして何度も同じ間違いをするのかしら」 「…ごめんなさい…」 僕に勉強を教えてくれているフローレンス=ワトソン先生はとても厳しい人で、1度教えたことを僕が間違えてしまうことが許せないのか、間違える度に叱責されて何度もやり直しさせてはまた怒るを繰り返してくる。その行為は、まるで自分が罪人になったような心地にさせてくるけれど、間違う僕が悪いのだから罪人と何ら変わりないのかもしれないって怒られすぎて疲弊した頭で思ってしまう。 学びたいと言ったのは僕だから、必死に手を動かして何度も何度も同じ事を繰り返して頭の中に叩き込んでいく。 アデルバード様が選んだ先生だから、きっと彼女はとても優秀な人で、あまり要領の良くない僕を見ているともどかしい気持ちになるんだと思う。 「ほらっ、また書き順を間違えていますよ!なんですかそのみっともない字は。ただでさえ何も出来ないのですから、この位のことすぐに覚えて貰わないと困ります」 「…はい…ごめんなさい」 僕の知らない知識を学ぶことはとても楽しいと思うのに、この高圧的な指導のせいなのか数日しか勉強していないのにこの時間がとても辛く感じて逃げ出したい気持ちに駆られる。 けど、逃げたりなんてしない…。 僕はアデルバード様の隣に立っても恥ずかしくない人間になりたいし、エレノアが自慢できるくらい素敵な兄になりたい。 だから、苦しくても辛くても僕は大丈夫だって自分に言い聞かせる。 「リュカ様そろそろ休憩の時間です」 ラナがそう言って紅茶を持ってきてくれて、それを見てほっと全身から力を抜くと、そんな僕の気の抜けた表情を目敏く目に止めたフローレンス先生が僕のことを睨みつけてきた。 彼女の目が休憩なんてする暇はないって言っていて、僕はまた身体を強ばらせて、ラナに向かって無理矢理笑顔を作って、まだ休憩は大丈夫って伝えた。 「しかし、あまり根を詰められてはお身体を壊してしまいます」 退室を渋るラナに僕は緩く首を横に振って、大丈夫だともう一度伝えた。 このくらいなんともない。 学ばせて貰えること自体がありがたいことなんだから、少し厳しい位で音を上げるなんて駄目だ。 「先生、頑張りますから、次はどれをしたらいいですか?」 「……リュカ様…」 先生に教えを乞う僕をラナが心配そうに見ていたことには気づいたけれど、僕はそれになんと声をかけていいのか分からなくて気付かないふりをしてしまった。 頑張らないと…。 もっともっと、出来損ないの僕はもっと人一倍頑張らないと駄目なんだ。 だから、心配かけてごめんねって心の中で謝って僕はまたペンを手に取った。

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