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29.もっと

先生が来られない日は、先生から課題が沢山出されて、それを必死にやりながら時間を過ごした。 その合間にアデルバード様が僕に会いに来てくれて、その時間だけが今の僕には心が安らげる時間に感じられた。 「数日会わない間に随分とやつれたのではないかい?」 「…そんなことないです」 「…そうか…リュカがそう言うならそうなんだろうね。勉強の方はどうかな?」 勉強のことに触れられて、ついぴくりと身体が反応してしまう。けれど、アデルバード様はそれには何も触れてこなくて、ただいつもの優しげな笑みを浮かべて僕のことを見ている。 「とても楽しいです。まるで世界が開けていくみたいで、とてもわくわくしています」 勉強自体は楽しいと思う。 今言ったことは本音だった。 知らなかったことを知れるというのは本当に楽しくてわくわくして、自分の狭かった世界が広がっていくような気分になる。 だから、先生のことは言わなかった。 怒られるのが怖くて、彼女のことが苦手なんて子供の駄々みたいだって思ったから。 「僕、少しだけ字が読めるようになったんです!」 そう言ってアデルバード様から貰った星の図鑑を広げると、1部を指さして声を出して読んで聞かせた。そうしたらアデルバード様はとても驚いた顔をした後に、すごく愛おしいものでも見るみたいに僕を見て優しく頭を撫でてくれた。 「こんな短期間でそんなに文字を読めるようになるなんて凄いことだよ。まるでリュカはスポンジのようだ」 「スポンジですか?」 「例えが変だったかな?とても、覚えが早くて優秀って言いたかったのだけど」 「…スポンジ…ふふ、なんだか面白い例えですね。アデルバード様に褒めてもらえてとても嬉しいです」 彼に褒めてもらった瞬間、辛いこととか悲しいことは全部吹っ飛んで、この瞬間のために頑張ってるんだって嬉しくなった。 もっと頑張ったら彼はもっと褒めてくれるだろうか。 もっともっと頑張ろう。 沢山褒めて欲しい。 彼に必要だと思われたい。 先生の言う通り何も出来ない僕はアデルバード様や周りのみんなに何も出来ないなら要らないって言われることを凄く恐れていて、だからこそ今、知らないことを少しずつ吸収できていることに喜びよりも安堵感を感じていた。 だから、僕は大丈夫。 僕ならもっと頑張れる。 「アデルバード様、僕一杯頑張ります。だから、また…褒めてくださいね」 「ああ、沢山褒めてあげるよ。でもね」 アデルバード様は僕のおでこに自分のおでこをくっつけて困ったように笑いながら言葉を続けた。 「でもね、無理だけはしてはいけないよ」 「……は、い」 無理なんてしてないです。 だって…僕は人よりも何倍も努力しないと駄目だから。

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