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62.何してんだ!
ガシャンっと剣が床に落ちる音を聞きながら、目の前で尻餅を付くアデレードを見つめる。
僕は歯を食いしばると、アデレードの目の前にしゃがみこんで彼の頬を思い切り平手打ちした。
「……っ!?」
「何してるんだよ!!!!」
ボロりと涙が溢れてくる。
どうして涙が溢れてくるのかも分からないまま、叩かれた頬に手を添えて唖然とした顔で僕のことを見つめてくるアデレードを抱きしめた。
華奢な肩がビクリと揺れて、彼は本当に変わってしまったと頭の片隅で思う。
いつも堂々としていて美しかったアデレード=ロペスはもう居なくて、目の前にいるのは自分の犯してしまった罪を受け入れられずただ震えている幼子のような青年。
「離して……」
「離さないよ」
「離せってばっ!!」
背中を握り拳で何度も叩かれて、その度に鈍い痛みが走るけれど、それでも僕は彼を抱きしめたまま離すことをしなかった。
ずっと昔、まだ僕が10歳の頃彼が僕に不細工だと言った日のことを今でも鮮明に覚えている。その言葉に酷く傷ついたから、というのもあるけれど、初めて会ったあの日のアデレードがあまりにも可愛くて綺麗で、こんな風になりたいと憧れを抱いたからでもあった。
ずっと、彼と仲良くなりたいと思っていた。
美しくて誰からも愛される自慢の兄。
性格は歪んでいるけれど、それでもずっとずっと綺麗だねって彼に笑いかけてこんな風に抱きしめあったりなんかして、仲良く勉強をしたり、そんな日常を夢見ていた。
だから、そんな彼が死を選ぶことを僕は許せなかった。
「僕のこと嫌い?」
「っ、大っ嫌い!!お前なんか、不細工でグズで、何も出来なくて、僕の弟でもなんでもない!!お前なんか……本当に大嫌いなんだから……」
涙で僕の肩を濡らしながら、アデレードが鼻声でそう叫ぶ。
僕はそれにうんうんって頷きながら彼の背中を撫でてあげた。
「僕もアデレードのこと嫌い」
「……っ……」
「嫌がらせするし、すぐ不細工って言ってくる、何度も痛いことされたし、酷いこともいっぱい言われた。だから、僕もアデレードのこと嫌いだよ」
「……な、なんだよっ……結局お前もみんなと一緒じゃないかっ!!僕のことあっさり捨てたジュダ様や周りのヤツらと一緒だ!!!だったら、そんなんなら、どうして助けたんだよっ!!!」
アデレードの悲痛な叫びを聞きながら、僕はなんでだろうって小さく呟いていた。
よく分からない。
嫌いなはずで、誘拐されて、ラセットさんは殺されそうになったのに……
それでも、死んで欲しくないって思ったんだ。
「ただ、勝手に身体が動いてただけ。理由なんてないよ」
そう、理由なんてない。
僕は優しい人間でもないし、きっと一生アデレードのことは嫌いだし許せない。
けれどきっと、何度同じ事が起きても僕は彼を助けるって確信していた。
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