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65.歯痒い
離宮へと帰ってきた僕は部屋へと戻ると深く深く息を吸って吐き出した。
ほんの少しの間に色々な事が起きすぎて頭の中がパンクしそうだった。
ここに帰って来てからアデルバード様は僕の傍に居てくれようとしてくれたけれど、今回の件で色々することがあるからとルート様に連れていかれてしまった。
「リュカ様っ」
「ユンナ」
部屋の扉がノックされて、入室を許可するとユンナが入ってきて、瞳を潤ませながら無事で良かったと言ってくれた。
ユンナにお礼を言うと、彼女が少しだけ横にずれてその後ろにシシィがいることに気がついて僕は表情を強ばらせた。
「……リュカ様」
今にも泣き出しそうな顔をして彼女が僕の名前を呼ぶから、僕はじっと彼女の目を見つめて話をしようって話しかけた。
「聞きたいことは沢山あるのだけど……僕が視察に同行することはシシィがロペス家に教えたの?」
「……はい……。リュカ様の動向や周りの使用人たちの動きは全て私が情報を流しておりました……」
そう言ってぎゅっと唇を噛むシシィを僕はただ真っ直ぐに見つめ続ける。
彼女が理由もなくこんなことする訳ないって分かっているから、少しでも彼女のことを理解したくてじっと彼女の様子を観察する。
「私は許されないことをしました」
「理由があってしたことなんでしょう?」
「……私の父はロペス公爵と古くからの知り合いで、水害の際は何度も助けて貰っていましたし、オルコット家はロペス家に借金もありました。ずっと、返さなくてもいいと言ってくださっていたのに突然直ぐに金を返せと……返さないなら言うことを聞けと……それも出来ないと言うなら幼い弟と妹を奴隷商に売れと言われて……」
「……どうして話してくれなかったの?助けてあげれたかもしれないのに」
「それは……」
「僕のこと信用出来なかった?」
「違いますっ!決してその様なことは思っておりませんっ!……ただ……言ったとバレたら弟達の身に何が起きるか……想像するだけで震えが止まらなかったのです……」
「……そっか……」
僕は小さく心のモヤを晴らすように呟いてから、シシィに近くに来るように言う。
そうして、近づいてきた彼女の手を握って、気づいてあげれなくてごめんねって謝罪を口にした。
どんな時でも彼女は笑顔だった。
今思えば、僕は今まで彼女の笑顔しか目にしたことがない。自分の心を押し殺してシシィがどんな思いを抱えていたかなんて、彼女の様子が変なことに気づいてすらいなかった僕には理解することは難しい。
僕は彼女の主なのに、周りの人の気持ちを汲み取ることすら出来ていなくて、そんな自分の不甲斐なさに腹が立った。
裏切られたことは悲しいけれど、僕がシシィのことにもっと気を配ってあげていれば未然に防げたことかもしれないと思うとなんとも言えない自分への苛立ちがふつふつと沸いてくる。
「アデルバード様にシシィのことは僕がどうするか決めていいって言われているんだ」
ここに戻ってくる途中、アデルバード様の馬に乗せてもらって帰りながらシシィのことについて話をされた。
どうしたらいいのか悩んでいたけれど、シシィの顔を見たら自分の中で決心が固まった気がする。
「どんな罰でも謹んでお受け致します」
シシィは僕の前に跪いて頭を床に付けるとそう口にする。弁解も何もせず罪を認めて罰を受けると口にするシシィを数秒見つめてから、そっと彼女の腕を取って顔を上げさせると、僕はシシィに自分の決めたことを伝えるために口を開いた。
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