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⑤
夕食後お土産のプリンを見せると、凛子は「わあ、うさちゃん、かわいい」と声を上げ早くスプーンをくれと陽向をせっついた。
「りんちゃんこぼさないようにちゃんと持とうね」
「うん」
可愛いと甘味の誘惑では後者が強かったようで、凛子は貰ったスプーンで早速食べ始めた。
「りんちゃんホントこのプリン好きだよね」
「美味しいか?」
「うん」
隣で見ている東園にコーヒーとガトーショコラを、自分の席には紅茶とチョコのショートケーキを置いて急いで座った。
「あのお店のクリスマスツリーも良かったよね」
いただきますと手を合わせて一口。陽向がほうとため息をつくと正面の東園が吹き出した。
「そんなにか」
「このこってりの一歩手前なクリームが好きなんだよね。スポンジもちょっと違うの。なにか、なんだろう、なにか入ってるよね。馨の友達すごい。これかおちゃんのお友達が作ってるんだって、すごいよね」
「すごいねー」
凛子は口の周りにクリームとカラメルを付けたままにっこり笑う。
そんなところも可愛くて、きゅんとくる。あとで拭いてあげようと思っていると、「俺も料理覚えるかな」と東園のすねた呟きが飛んで来た。
「老後にでも始めたら? 馨いつも忙しいじゃん」
「先すぎるだろ」
なにかと競いたがる性分なのかなと思う。
何にも動じなさそうな、いかにもαな見かけと子供っぽい言い草とのあいだにギャップがある。
こういう所もモテる一因に入りそうだなと思う。東園を知る前は羨ましかったが、最近はそう思うことも無くなった。モテて当然だなとつくづく感じるのだ。だっていつ見てもハッとするほど顔がいいし、何を着ていても様になる。そのうえ優しさもあるから。
食器を片付けながらテレビのホームセンター特集をチラ見していた陽向はねえ、と凛子を抱いた東園に声をかけた。
「おもちゃ屋さんよりホームセンターの方がツリーあるかな?」
「そうだな。でも凛子はこっちに来ておもちゃ屋に行ったことがないから連れて行ってあげたいかな。あれもあるし」
あれってなんだろうと首をかしげた陽向に、東園が口パクでクリスマスプレゼントと教えてくれた。
そうだ、前々から凛子の欲しいおもちゃをリサーチしていたのだが、いまいち反応が薄く東園とどうしようか頭を悩ませていたのだ。
確かに、ものを見たら欲しいものがはっきりするかもしれない。
頷きながら週末は忙しくなりそうだなと思う。
デザートの後、リビングでお絵かきしていた凛子は東園に「風呂にはいろうか」と声を掛けられぐずることなく抱っこされた。
今日はウサギプリンのおかげでご機嫌がいいようだ。
陽向は凛子の部屋と自分の部屋から着替えをとり、脱衣所に置いた。
洗濯機の隣にある棚から凛子用のバスタオルを取り出しつつ、浴室から聞こえる凛子の歌に耳を澄ます。朝の幼児番組のオープニングテーマだ。上手に歌えているなあとほっこりしながらリビングに戻り自分のマグカップを流しに置いた。
凛子と東園が風呂から上がってきたら凛子はもう寝る時間だ。
そろそろかな、と浴室へ向かっていると「凛子がそっち行った」と東園の焦った声が聞こえたと同時に凛子が廊下に飛び出してきた。
ちょっと遅かったかと思いながらお湯でほかほかになった凛子をひょいと抱え上げ脱衣所に連れ戻す。
「りんちゃん、ちゃんとパジャマ着ないと風邪引いちゃうよ」
「ぶーんやー」
凛子は着替えの後のドライヤーが嫌いなのだ。分かっているけれどこの時期濡れた髪のままでは本当に風邪を引いてしまう。
陽向が凛子を着替えさせている間に東園は横で着替える。といってもいつも下着とスウェットのズボンだけ履いて凛子の着替えを待っている。
彼にはこの後重要な仕事がある。
「よし、馨いいよ、あ、」
着替えを終えた凛子を抱き上げて貰おうと声を掛けたら、それを合図とばかりに凛子が陽向の腕からするりと抜け、走り出そうとした。
「おおっと、凛子、ドライヤーがまだだぞ」
脱走の予測をしていた東園が先手を打っていたようで凛子は走り出す前に東園に抱き上げられてしまった。
「ああん」
「ごめんね、すぐ終わるから頑張ろう」
東園が暴れる凛子を抱いているうちに急いで凛子の長い髪を乾かしていく。
「りんちゃん、これ、音が嫌なのかな? それとも熱いのかな?」
「あちゅいの」
東園は顎を突っ張られて大変そうだ。
陽向も一度抱き手を経験しているが、陽向の力では抱いていられるものの右へ左へ身体ごと持って行かれ、乾かし手の東園がやりにくそうだった。よって今の作業分担に落ち着いたのだ。
「そっかー。でも冷たい風だと寒くなるから、あとちょっとだけ温かい風で頑張ろうね」
凛子の嫌いなこと第二位に輝く「櫛」を持ち一回だけだからと髪をとかす。
凛子の髪は細く、ちゃんととかないと蜂の巣みたくなってしまう。綺麗に髪をとかしたので今度は仕上げの優しい風をあててゆく。
「はい、いいよ」
本当はもうちょっとかけたいけれどこれ以上は無理そうだ。声を掛けると途端に凛子は東園の腕から飛び出してリビングへ飛んでいった。
「お疲れ」
「陽向もな。風呂いいよ」
「あ、りんちゃんにお水飲ませてあげて」
「了解」
タオルを首に掛けたままリビングへ向かう東園に「上をすぐ着なさいよ。風邪引くよ」と声をかけて陽向は脱衣所のドアを閉めた。
入浴を済ませた陽向が戻ると凛子はリビングで鼻歌混じりに積み木をしていた。東園もちゃんと着替えを済ませている。いくら人に見せても恥ずかしくない身体であっても、いくら上半身だけであっても、この季節に長く裸でいるのはいただけない。
楽しそうに遊んでいた凛子だが、そのうちにふぁっと欠伸が出始めた。
「さあ、りんちゃんお部屋行こうか、今日はなんの本を読む?」
「キャンディの本!」
「よし、じゃあお片付けしようね」
凛子が積み木を片付け終わると、ダイニングでタブレットを眺めていた東園がこちらへやって来た。
凛子は行こうと伸ばされた東園の手を取り、空いた片手を陽向に伸ばす。三人、手を繋いで階段を上がる。早く帰宅できたとき、仕事が立て込んでないとき、東園は凛子の寝かしつけに付きそう。
凛子の部屋の本棚から凛子ご希望のキャンディがたくさん出てくるお化けの絵本をとってベッドへ向かう。
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