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運命のつがいと初恋 第四章 ①
シャボン玉がはじけるくらい、ほんの一瞬の気配の揺れで陽向の意識が浮上した。
でもまだ意識は蕩けていて開いたばかりの目をもう一度閉じると間違いなく眠れそう。
目に映ったのは東園の部屋の落ち着いたベージュの壁紙にマホガニーのような色調だけどアンティークには見えない広いデスクと小さなガラスの棚。
人気はない。
起き上がるといつ着たのか覚えていないがちゃんとパジャマを着ていた。
東園はもうリビングかなとベッドから出ると腹から腰、太ももまでだるく重々しい。
昨晩いつも使わない筋肉を使ったんだろうなとのんびり思う。
部屋から出ようとして、一般的にこういう朝は一体どんなふうに過ごすのだろうかと考える。痴態を晒してしまったからどんな顔をして東園と会えばいいのか分からない。
ため息交じりに扉を開くと階下から複数の声がしてぎょっとした。
扉を少しだけ開いて声を聞く。
バタバタと足音を立てているのは凛子だ、大人ではあんな音でない。しばらく聞いていると甲高い凛子の声がしたから間違いない。
凛子が帰ってきたということは、送ってきた人がいるわけで。耳を澄ますと東園の両親の声も聞こえ血の気が引く。
時計を見るともうあと数分で午後になる。
随分寝ていたんだなあ、とある意味感心してしまう。それだけ疲れたのかも。
しかしながらずっとここにいるわけにはいかない。二階にいて良かった、陽向はそっと東園の部屋を出て陽向の部屋へ向かった。
ひやっとする部屋から着替えを持ち出し東園の部屋に戻った。ああ、こっちは暖かいなと思う。
パジャマを脱いでセーターと綿パンに着替えた陽向はまたそろっと階下を窺う。
こんな時間まで寝ているシッターって、首になったりしないかな。自己都合の練習による疲れでは言い訳にならないかも。
……いや、日曜日は勤務外だった。
階段を一歩降りたとき、階下まで走ってきた凛子が「ひーたん」と叫んで飛び跳ねた。
「あ、りんちゃん髪切ってる、可愛い!」
顎より短いボブになった凛子はグレーのワンピースを着ていた。
いつも幼児向けブランドの洋服を着ている凛子だが、本日はもう一段上に見えるワンピースだ。
階下に降りて久しぶりの抱擁をした凛子と陽向の脇に、東園が寄ってきた。
「あ、おはよう」
膝立ちで凛子を撫でていた陽向が見上げると、東園が小声で「身体大丈夫?」と聞いてきた。
今聞くのか、恥ずかしい、など様々な感情で陽向は混雑したが最終的に「だ、いじょうぶ」ともごもご答えた。
「あ、三田村君こんにちは。みんなでご飯食べようよ、デパ地下でいっぱい買ってきたんだ」
「こんにちは。あ、じゃありんちゃんの椅子こっちに作りますね」
「ちょっと馨、お皿持ってきて」
「ああ」
よく考えたらすごくお腹がすいていた。
キッチンに立つ智紀と、複数の紙袋、ビニール袋から中身を取り出す誠二郎の様子を見ると、たった今ここに着いたようだ。三人のコートがソファにかけてある。
陽向はそれをハンガーに掛け、和室に移動してあった凛子用の椅子をセットした。
準備をしている間中、智紀が週末の出来事を話し、誠二郎が相づちを打っている。
二人が凛子を連れて行ったという遊園地は、メジャーな遊園地ではなく、動物園に併設された小規模で幼児向けのものだったらしく、午前中は動物園を楽しみ、午後、その小さな遊園地を楽しんだという。
デパ地下の惣菜がテーブルに並ぶ。様々な食材を合わせたサラダやマリネは色鮮やかだし、フライの盛り合わせは食欲をそそる。
陽向はデパ地下で買い物したことがなく知らなかったが持ち帰り容器に貼り付けてあった品質表示のシールに金額があり、見るとおお、と驚きの声が出るくらいには高かった。
思った以上に美味しい料理に陽向だけじゃなくみな箸が進んでいる。
凛子はお腹がいっぱいになると椅子を飛び出しテレビをつけてとせがんだ。
「凛子、ここのところ朝から晩まで外で遊んでたからなあ、テレビひさびさに見たいよね」
そう言いながら智紀はテレビをつけてやり、録画した番組一覧を見ながらこれがいいの? と凛子に聞いている。
凛子を見守る智紀の優しげな眼差しに愛されてるなあと思う。
食事を終えると誠二郎も凛子に呼ばれ、見て見て、とダンスをはじめた凛子に手拍子を添えている。
「りんちゃん楽しかったみたいで良かったね」
食器を片付けながら東園に話しかけると、流しで皿を流していた東園がリビングに目をやりふっと微笑んだ。
「そうだな。コーヒー飲むか?」
食器を運んだあとテーブルを拭きはじめた陽向は頷く。
「誠二郎さんと智紀さんの分も淹れたら?」
「ああ」
リビングではすっかりリラックスした三人が楽しく遊んでいる。
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