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⑪
早朝だからいいかも、と庭に面する窓を開いた途端に陽向は自分の甘さを知った。
八月は早朝とはいえ強い日差しと入り込んだ熱気に思わずため息が出る。とはいえ一度決めたので陽向は足をサンダルにいれぴょんと飛び込むように庭に出た。
本日は凛子が朝から遊びに来る。朝から東園はしまい込んでいたおもちゃを引っ張り出したり、おやつを用意したり忙しそうにしている。
陽向はというと、昨日三浦とショッピングモールに行った際手に入れたプールを外に出してみようかと庭に飛び出してみたのだが、早朝でこれだから日中のプールは暑すぎて厳しいかもと残念な気持ちですごすご家に戻った。
「せっかく買ったけど、今日プールは暑すぎるかも。屋根でもあればいいけど」
台所の東園に向かって陽向が声を掛けると、フライパンを握ったまま東園が
「いや、凛子がどうしてもしたいなら裏の物置にタープがあるから出せばいい」と顔を上げた。
「タープあるんだ」
「ああ、凛子がこっちにいるとき、両親が持ってきた。すっかり忘れてたけど」
「屋根があればりんちゃん、日焼けしなくてすむしいいね」
窓を閉め陽向がキッチンへ向かうとトースト、くたくた野菜のスープに目玉焼き、ベーコン添えが出来上がっていた。最近東園は週末の料理当番に立候補し頑張っている。
「美味しそう」
「さあ食べよう、凛子が到着したら忙しくなる」
「そうだね」
陽向はマーマレードとブルーベリージャムの小瓶を冷蔵庫から取り出しテーブルに置いた。
椅子に座った陽向の前にノンカフェインのコーヒーを置いて東園も陽向の正面に座る。
「頂きます」
同時に手を合わせて二人してふふと笑う。
陽向の妊娠発覚後、慌ただしく両家への挨拶を済ませ婚姻届を提出した。
陽向は自分の両親、特に母親が反対しないかと胃が痛くなりながら実家に東園を連れて行ったのだが、東園の如才ない振る舞いのおかげか歓迎されほっとした。
結婚式などは東園がとにかく無事出産してから考えると強く主張するので陽向も賛成した。
Ωの男性で出産経験のある智紀も妊娠中はのんびり過ごした方がいいとアドバイスしてくれたし、おそらく対外的にある程度の結婚式を執り行わなければならないだろう東園もそう言ってくれているから存分に甘えることにした。
陽向がマーマレードの瓶を取ると、東園はブルーベリーの蓋を開く。
東園はマーマレードよりブルーベリーが好きで、目玉焼きにはソースをほんのちょっと垂らす。
約一年前はただ顔の良いαの同級生という情報しか持っていなかったのに、今は小さな好みも知っている大事な家族になった。大きめの口にするすると食材が入っていく。
「どうした? 具合悪い?」
「ううん、大丈夫。格好いいなと思って見てただけ」
「……食べてるとこが?」
うんうんと頷くと照れ笑いしながら「見てないで食べて?」と促された。
意外と照れ屋のようだと最近知った。
今日より明日、きっともっと自分は東園を知る。
それはなんて幸せな日々なんだろうと思う。
マーマレードの爽やかな甘さと苦みを味わいながら、陽向は抱えきれない幸せを噛み締めた。
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