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番外編「気まぐれで人は愛せない」
恋が終わったことを別れたと言うのか。
振り振られという言葉では片づけたくない。
一人で慰めることをしてみた。
青の面影を脳裏に描くのではなく、
男女の絡みの動画を見ながらだ。
男同士のものもあるらしいが、
そそられなかった。
こういう作ったものではなく現実での
同性愛に偏見はない。
自分も初恋は男の人だった。
女性に免疫はないからどうかと思ったが、
見ていて、それなりに興奮した。
そんな自分の存在に少し呆れたが、
身体が反応することは嬉しかった。
(驚いたのが、抱かれたいじゃなく
抱いてみたいって感じたことだ。
淡々とそう思っただけで、
女性に興味が湧いたわけじゃない)
彼だから好きになっただけで、
異性も愛せるということなのだろうか。
いつか彼がそう言っていたように。
「……こういう欲を目覚めさせたのもあいつなんだよな」
今も恋愛や性的志向が同性なのか
確かめたい気持ちも出てきた。
1月半ば。
実家から戻って1週間あまりが過ぎていた。
性格上一人でいるより
誰かと過ごしたいタイプ。
マンションの部屋では、食事をし勉強をする。
そのルーティン。
塾講師のバイトは来月から行けることになった。
その前に行動を起こすことにした。
以前、一度ふらふらと立寄った場所では、
声をかけられても興味を抱けなかった。
これは賭けみたいなものだった。
クリスマスまで付き合っていた彼は、
考えもよらないことだろう。
「いらっしゃいませ」
メイクをした小綺麗な人物が出迎えてくれた。
肉体の性別的には男性だが、
心は乙女。
「こんばんは!」
「お兄さん、激かわね。モテるでしょう」
「どうでしょう。先月、失恋したばかりですけどね」
カウンターのスツールに座る。
「お酒は飲めるの?」
「たぶん、だめなのでソフトドリンクを。
オレンジジュースってできます?」
「おっけー」
渡されたグラスを受けとる。
「圭(あきら)よ。この店のママやってます」
「アオイです」
「……見れば見るほどかわいいし綺麗」
「嬉しいな。ありがとうございます」
「あなたが振った側?」
「どうしてわかるんですか?」
「……勘が当たったのね」
ママにかまをかけられた。
「相手が言えないから言ってやりました。
どちらにしろいつかは終わるってわかってたんですよ」
「どれくらいのお付き合いだった?」
「中三になる前から付き合ってたから8年ちょいかな。
去年は、たまに会っても身体だけの繋がりっていうか」
知らない相手だからこんなにも砕けて話せるのだろう。すべて終わったことだ。
「……それは痛手を負うわ」
「同じ性別の人を愛し壊れたわけですが、
また誰かを愛せるのか気になってるんです。割と寂しがり屋だから独りじゃ生きられない」
「……今はまだ無理でもまた恋ができるわよ。
あなたは情が深そうだし」
「どうだろう。どうでもいいものには、
とことん冷たい人間なのはわかってるんですが」
ぽつり漏らした呟きに
ママは間を置いて答えた。
「一時の慰めで癒されてもいいんじゃない?
あなたに声をかけたがってる子が近くに座ってるわよ」
振り向く。
テーブル席に一人で座っていた人が近づいてきた。
少し年上のサラリーマン風の男性だ。
「……アオイくんよ。森下さん」
「初めまして」
森下と名乗る男性と握手を交わす。
そのまま店を出た。
(大胆な行動だな……)
彼は戸惑っているのか、こちらの手を強く握り大股で歩く。
身長は180センチ程だろう。
「お兄さん、どこへ連れていってくれるの?」
「アオイくんの行きたいところ」
「……ホテル」
声はかすれていた。
恋仲だった人としか、
行ったことはない。
ラブホテルも三ヶ月前に一度行ったが、
先月は高級なホテルの部屋だった。
「……無理なら断っていいから」
なんて言うくせに、バーから一番近いホテルに連れて行かれた。
嘘の笑みを貼り付けて見上げる。
(……知らないけどこの人は、
恋に敗れたんだろうな。まだ新しい傷が疼いてるってところ?)
部屋に着いた途端、抱きしめられた。
腕が震えているのがいじらしくて、
こちらからも抱擁してみた。
こんな時にもまだ彼を浮かべてしまうのは、
未練じゃなくて長い年月共にいたからだ。
(それだけで何もない)
「お兄さんは抱く側だった?」
「……そうだね」
「僕は抱かれる側だったけど、
きっと本質的には抱く側なんだよ」
抱擁を解きソファーに座る。
相手は手持ち無沙汰なのかネクタイをゆるめて、第二ボタンまで外した。
はっきり相手の顔を見た。
精悍な顔立ちのイケメンだ。
見た目で同性愛者かどうかは分からない。
相手の出方を窺う。
「森下さん」
視線を感じたので名前を呼んだ。
手を強く掴まれて導かれる。
ふたりでベッドに横たわった。
隣から聞こえる荒い息遣いに意味を考える。
この人は、そういうことをしたいのか。
僕は利用するのか。
触れられて嫌だとは思わない。
遊びで恋愛はできない。
(同じだ)
一時の感情に突き動かされて、
一線を超えることはできないのだ。
「……あのお店では相手を見つけたかったの?
傷の舐め合いがしたかった?」
「寂しい気持ちを分け合いたいって思った」
「僕もあなたも間違えたのかな?」
試すように笑う。
キスが落ちてくる予感がしたから、
自分から唇を重ねた。
彼の唇に指で触れる。
「抱きたい?」
「……うん。身体は反応してるから。心とは別のところでね」
太ももに触れるのは、彼の欲望。
「僕の場合は一緒だよ。心が求めないと身体は反応しない」
「……駄目?」
「僕が抱く側ならいいよ。
でもあなたは無理なんでしょ」
耳元で囁いてみる。
反応するかは不明だった。
受け身なら起たなくてもできるが、
つまり感じていないことになる。
「……ああ」
「寂しかったら、一人でしたらいいよ。
相手がいらないし楽でしょ」
抱きしめてみた。
「……そうかもね」
起き上がる。
「……新しい恋見つけられるといいね」
「アオイくんもね」
ため息を逃がすような口調だった。
その表情に痛ましいものを感じて、
気まぐれな行動を思いついた。
「誘ってくれたお礼」
頬に口付ける。
強く抱きしめられて頭を引き寄せられた。
「小悪魔だね」
「そう?」
部屋の代金の半分を渡した。
「森下さんも気軽なことできないだろ。
いい男なんだからすぐ相手見つかるよ」
ホテルの部屋を出て、
マンションに戻った。
恋にもならない一時。
適当な言葉を投げつけた。
(……僕じゃなかったらワンナイトできたかな?)
僕が恋に落ちるのは、
いつか分からない。
制限がなく障害がない恋なら、
いいな。
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