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番外編「十年後に共にいなくても」
10年後の未来において僕と青は共にいないだろう。
僕は大学院にいるか修士課程を終えたのちで就職しているはずだ。
彼は、初期医療研修を終えて専門を決めようとしている頃だ。
そんな先のことを考えても仕方がないか。
今の僕らで一緒にいられるだけでいい。
高2の夏休みは、忙しなく過ぎていく。
進路を決めた二人は勉強に重きを置いて過ごしていて、
ただ遊ぶだけのデートをすることはない。
一人で勉強に集中する時は彼からの誘いはない。
「蒼宙(あおい)……どうしたんだ?」
携帯電話のカレンダーを見て息を吐く。
ため息が出るほどかっこいい恋人は、
二年前のバレンタインから付き合っている。
運よく同じ高校に行けたしお互いの家族も公認で
応援してくれている。
とても幸運と言えた。
(……皆心強い味方だ)
青も僕もお互いが好きなだけで、
きっと他の同性とは恋をしないだろう。
そんな気がしている。
勉強中に呆けていた僕に青が不思議そうな顔をする。
「いや今が一番大事だなって……」
「そうだな」
じいっと見つめると照れた風に頬を染める。
彼は秀麗な美貌を持ちながら異常に可愛い。
「そんなに見るなよ」
「青が可愛いから見ちゃうんだ」
「……蒼宙の方がずっとかわいい」
青は長い指を僕の頬に伸ばしくすぐった。
薄い茶色の目は偽装しているだけで
本当は名前と同じ色の目をしている。
小学校の時、一目で引き寄せられた神秘的な青い眼差し。
「青はいつか本当の目の色で生きる時が来るのかな」
「……分からない。だがずっとこのままで
いるわけにはいかないんだろうな」
いとおしくなって抱きついた。
今日は朝から僕の家で勉強していて
母お手製の昼食を一緒に食べた。
母は青とハグしてかっこいいを連発していて、
僕の恋人なんだと誇らしい気分にもなった。
「そろそろ午後三時の休憩だよね」
「休憩前から集中してなかったじゃないか」
あきれた風でもなくからかう風に言う。
「ちょっと未来を憂えてた。
今が一番大事って言ったのはそこに繋がってるわけだけど」
「十年はあっという間に来る未来なのかもしれない」
「考えることが一緒で驚いたよ。僕も10年後のこと考えてたもん」
「医師になれてたら三年目か。
産婦人科を選ぶんだろうな……」
「具体的に決まっててすごいね。僕はあやふやなまんまだよ」
結局、何が正解なのかは分からない。
「一つだけ分かっていることがある」
「え?」
「俺らの関係がもし恋愛ではなくなったとしても……
お前と俺との縁は繋がったままだ」
泣かせるようなこと言わないでよ。
恋人じゃなくなっても縁が繋がったままなんて
異性同士じゃできないことなのかもしれないよね。
具体的な想像をする必要なんてないか。
「僕も決めてることがある」
「重くても受け止めるぞ」
「……初めては君がいい」
腕の中で身じろぎする。
見上げると彼は頭を撫でてくれた。
真摯な表情をしている。
「俺も。お前がいいな」
ついばむキスを交わす。
「多分そんなに先の未来じゃないと思うんだ」
大胆な発言をして彼の背に腕を回す。
「そうだな。今だって限界ぎりぎりだ」
長めのキスをすると吐息が宙に溶ける。
ニ十センチ近く違う身長。
僕のためにしっかりと抱えて支えてくれる優しさが嬉しい。
僕からキスをしたらうろたえたけれどすぐに強気なキスが返ってくる。
「おふたりさーん、おやつの時間ですよー! リビングまできてね!」
扉の前からにぎやかな声がする。
「はーい!」
返事をする。
青と顔を見合わせ笑い合う。
リビングに行くとテーブルには羊羹とカフェオレが用意されていた。
僕のカップの横にはガムシロップが添えてある。
「今日は青くんがお土産で持ってきてくれた羊羹よ。
子供の二人にはコーヒーなんて早いからカフェオレね」
「ありがとうございます。大人になってブラックコーヒーを飲むのが楽しみです」
「せっかくの日曜日なのにパパがいないの残念ねえ。
青くんが来てくれるの伝えておいたのに」
「俺もお会いしたかったです」
「教授になってから付き合いが多くなっちゃったんだよね」
大学教授の父は、休日も大学関係者と会うことが多い。
「うちの父も病院関係者との付き合いが多いので、
仕方ないことだと分かりますよ」
青はコーヒーカップを静かに傾ける。
僕は彼を横目にガムシロップをカップに注ぎ入れた。
「そうね。藤城先生も大変なお仕事されてるもの」
「おじ様はいつも颯爽としていてかっこいいよね」
青は静かに微笑んでいる。
「俺は父に恩返しをしたいなと常に考えてます。
大学をストレートで出て医師国家資格も、
浪人せずに取ってそこからですが」
「……青は後継者だものね。重みが違うよ」
恋愛にうつつを抜かして他をおろそかにする人じゃない。
僕も彼の邪魔をしたくはなかった。
「青くんは謙虚よね。
余裕ぶってないところもポイント高いわあ」
「青と一緒に一発合格目指して頑張る」
「二人共がんばって!
同じ時間を過ごせる高校時代に
勉強デートメインなのも二人っぽくていいわ」
「実冬さんがいらっしゃるから
ここでのデートが一番安全かもしれませんね」
「藤城家は子供以外不在のこと多いし危険だよね」
「どんなふうに危険なのか知りたいわあ」
悪い顔をした母に青は、顔を赤らめる。
「こんな風に照れる青に何ができると思うの」
「危険なのは蒼宙の方かもね」
「……きっとそうですね」
「最初に青を誘惑したのも僕だしね」
冗談ぶって笑う。
あの時はやり返されて悩殺された。
「いいのよ。二人は想い合っているんだもの」
母は至極真面目な顔をしていた。
肝心の日に母が家を留守にして僕は貞操の危機に陥ったが
青と初めてを迎えられたからよしとする。
積極的に迫ったのは僕の方で、
青はその誘惑を受け入れた。
かなり上手にリードしてくれたのだけれど
それはまた別の話だ。
一年半先の未来の話。
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