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第7話
自分の叫び声で目を覚ました真洋は、痛いほど高鳴っている心臓をなだめるために、大きく呼吸した。
そして辺りを見回して、見慣れない景色にまたか、と頭を抱える。
どうやらまた、酒を飲んでやらかしたらしい。
「どうした?」
隣から声がしてハッとそちらを見ると、和将が心配そうにこちらを見ていた。
「最悪だ……」
またこのパターンかよ、と真洋は自分でうんざりする。
「人の顔見て最悪だはないでしょ。私も、顔はそこそこ良い方だと思うけど?」
顔の事じゃない、とツッコミたかったが、そんな気力は無かった。
「……悪かった。シャワー浴びる、ついてくんなよ」
起き上がる真洋。しかし和将はその腕を掴んで止めた。
「それより先に、金曜日じゃないのに俺を呼び出した理由を知りたいなぁ」
「……」
確かに今日は金曜日ではなかった。どうして、どうやって和将を呼び出したか、真洋も記憶を失っているので分からない。
「俺、何か言ってたか?」
和将を見ると、彼は意外と優しい目で真洋を見ていた。
「何も。ただ、出会った頃より荒れてたよ」
「……ホントに悪かったよ、金曜日以外は仕事、忙しいんだろ? えっと、何だっけ、仕事」
「弁護士。お陰でアポ1件キャンセルになった」
真洋は言葉に詰まる。出会った頃に嫌という程聞かされた和将のプロフィールは、全然頭に入っていないし、約束を破って金曜日以外に呼び出したのは真洋の都合だ。
いくらなんでも自分勝手だし、これでは理由くらい知りたいよなぁ、とため息をついた。
それと同時に、話したくない、と思う。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
「悪かった。もう金曜日以外は呼び出さないから」
「……私は理由を聞いてるんだけど?」
「セフレと会うのに、セックス以外の理由がいるのかよ?」
そう言うと、和将の真洋の腕を掴む手に力が入る。反射的に手を引こうとするが、ビクともしなかった。
「私は真洋の本命になりたいって言ってるだろ? 心配してるんだよ」
少し強くなった語気に、和将の本気が見えて、真洋は色々な想いが溢れて目頭が熱くなる。
どうして、自分の周りは自分の事を放っておいてくれないのだろう?
傷付くのはもうたくさんだ。だから今までの縁を全て切って、深入りしないような関係を作ってきたのに。
「どうして、放っておいてくれないんだ。俺はもう、人に注目されるのは嫌なのに」
「真洋?」
長めの髪のお陰で目元は隠せたが、涙声までは隠せなかった。それに気付いた和将が、顔を覗き込んでくる。
「……悪い。ホントに今日は帰らせてくれ、頼む」
真洋は和将の視線から逃れるように顔を背ける。
「……帰って、ゆっくり休んで。また金曜日にな」
そう言って、和将は手を離してくれた。真洋はシャワーを浴びるために、浴室へ向かう。
シャワーの蛇口を捻ると、お湯を勢いよく頭から浴びた。
「……何で未だに連絡してくるんだ、光」
しかも、違う番号も使って。そんなに真洋に用事があるとは思えない。
あんな形で終わったのに、変わらず連絡してくる神経が分からない。
シャワーの音で真洋の声はかき消されたが、いっそこの存在も消してくれと真洋は思う。
どうして自分は男しか好きになれなかったんだろう?
思えばアイドル生活をしていた時も、女の子を紹介されなかった訳じゃない。
でも良いなと思うのはみんな男で、しかも美男子と言われるような、顔面偏差値が高い人達ばかりだった。
家族にはカミングアウトしていない。でも、過去に何があったかは、噂には聞いているだろう。だからここ数年は連絡もしていないし、向こうからも連絡は来ない。
今回スマホを替えたので、真洋から連絡しない限り話すことは無いだろう。
(光とも、これで完全に切れたな)
思えば、最初からそうすれば良かったのだ。仕事用だ何だと理由を付けて、わざわざ迷惑メールフォルダを見る度嫌な思いをしていたのは、まだ真洋に未練があったからなのかもしれない。
もう着信やメールにうんざりしなくて済む、そう思ったら涙が出てきた。
「好きだったんだなぁ……」
今頃になって、光の存在が真洋にとってとても大きなものだったと気付く。
いっそ自分が異性を好きになれたら、こんな想いはしなくて済んだのだろうか。
込み上げてきた涙を我慢せずに、気が済むまで泣いた。
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