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第9話
真洋は晶に電話をしてみたが、繋がらなかった。
折り返し連絡があるだろうと思って自宅に帰ると、暗い、静かな部屋が真洋を迎える。
「やっぱり、誰もいないって寂しいよなー」
独り言を言いながら、リビングにあるソファーに座る。
余計な物は一切ない、シンプルな部屋を見渡すと、余計に寂しくなりそうで止めた。
逃げるように去った芸能界から、少しでも離れたくて地方に来た。けれどこの時代、要らない情報はどこからでも、どこにいても入ってくる。
寂しがり屋なのに、独りがいい。自分でも矛盾してると思うしめんどくさい。だから晶や、『А』に来るメンバーと、その時を楽しく過ごせれば良いと思っているのに。
「金曜日が暇ってだけで、何でこんなに落ち着かないんだか」
思えば金曜日以外は好きなように過ごしているのに、久しぶりにぽっかりと空いた時間を、どう過ごしたら良いのか分からない。
もしかしたら、自分が思った以上に金曜日を楽しんでいた?
そんな考えがよぎり、まさかな、と打ち消す。
すると、スマホが着信を知らせる。待ってましたと言わんばかりに、真洋はすぐに電話に出た。
「悪ぃ真洋。何だ、今日はデートじゃなかったのか?」
晶は外にいるのか、周りの賑やかな音が入ってくる。
「いや、キャンセルになったから『А』に行ったら、お前いなかったから。って、デートじゃねーよセフレなんだし」
「ホント男の趣味悪いけど、両想いなんだからデートで良いんじゃね?」
「はあ?」
色々突っ込んで聞きたい晶の発言に、真洋は変な声を上げた。
「前も言ってたけど、俺そんなに趣味悪いか?」
「そりゃもう。絶対付き合ったら苦労するなーって奴ばっかじゃん。女からもモテそうな、顔よしスペックよしな奴」
そう言われて真洋は言葉に詰まった。どうしてか、晶には真洋の心が読まれているようだ。
でも、読みが間違っている所もある。
「でも両想いじゃねーし……」
「あっそ。そういや、ツテでトランペット吹けるやつを探してる人がいるんだけど、お前の事推しといた」
ちょっと待て、と真洋は慌てる。またコイツは本人のいない所で、勝手に仕事を決めようとしているのか。
「晶、もうそう言うの止めてくれ。前にも言ったけど、今でも十分食っていけてるから」
「いや、前一緒に演奏して分かったけど、お前はやっぱり人前に出て輝くタイプだわ。俺はお前と仕事したい」
真洋はため息をつく。言っても聞かないタイプなのは分かっている、けれどこれに関しては譲れない。
ましてやまた誰かと組んでなんて、たとえそれが晶でも嫌だ。
真洋が黙っていると、晶もため息をついた。
「拉致があかねぇな。また今度話し合おう、じゃな」
そう言って、真洋が返事をするよりも早く、通話は切れた。
真洋はスマホをソファーに放り投げると、ぐったりとして長いため息をつく。
あの様子じゃ諦める感じではない。
どう断ろうか、と考えを巡らせるけど、何も思いつかない。
光と晶は違うと頭では分かっている。恋人を作りたくないのも同じ理由だ。
だけど、どうしても怖いのだ。
「……寝るか」
こういう時は考えるのをやめてしまうのが1番だ。
食事をするのも、シャワーを浴びるのさえ面倒だ。
真洋はそのままソファーに横になると、すぐに眠りに落ちた。
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