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第10話
「どうしたの? 今日はいやに積極的だね」
次の週の金曜日、ベッドの上で和将は、真洋を後ろから抱きながらそんな事を言ってきた。
「うるさい、先週お預けくらったんだ、そりゃがっつくだろ」
早くしろ、と真洋は身体を擦り付ける。和将の熱くなった肉棒が、尻の狭間にあるだけで達してしまいそうだ。
「私も嬉しいところだけど、今後仕事が忙しくなりそうなんだ」
「あ……っ」
和将が入ってくる。圧迫感と、粘膜が擦れる快感に、思わず声を上げた。
「うっ……ん!」
そしてそのまま、限界だった真洋はこれで2回目の精を放ってしまう。ビクビクと身体が快感で震え、腕から力が抜け、尻を上げたままベッドに突っ伏した。
「あら、またイッちゃった? これからが本番なのに」
そんな意地悪な事を言いつつも、和将は真洋が落ち着くまで待ってくれている。
「真洋……」
「……っ! だから、それやめろって」
和将に耳元で名前を呼ばれ、その甘い響きにゾクゾクする。
かろうじて繋ぎ止めている理性が、飛んで行きそうで嫌だ。怒るけども、聞いてる様子はない。
「ついつい可愛くて」
顔は見えないけれど、ニヤニヤ笑っているのは気配で感じた。そしてまた耳元で名前を呼ばれ、好きだよ、と耳にキスをされる。
真洋はそのどれにも敏感に反応し、手で耳を塞いだ。しかし和将が動き出したせいで、その手はシーツを掴む事になってしまう。
「あっ、ヤダ、や……っ!」
強烈な快感が襲い、真洋は思わず顔を上げた。ゆっくりな動きでも十分過ぎるほどのそれは、真洋を再び硬くさせる。
それに気付いた和将は、一定のリズムで真洋を貫きながら、真洋の熱を更に上げるように、ゆるゆると擦り上げてくる。
「エロいなぁ真洋は。また硬くなってる。元気だねぇ」
そういう和将も少し息が上がっていて、その吐息が耳にかかるとそれにも感じて、何が何だか分からなくなってくる。
早くなる律動に翻弄され、和将の些細な愛撫にさえ、頭が白くなるほどの強烈な快感に変換された。
生理的な涙が浮かび、それがボロボロ落ちているのも気付かないほど、快感に夢中になる。
「あっ、もっと! い、イク、い……っ!」
あっという間にまた身体が震え、3度目の絶頂を迎えたが、今度は射精には至らず腰が震えるばかりだ。
「真洋、中でイってるの? 気持ちいいの?」
真洋は声も出せず、コクコクとうなずくだけだ。
(くそ、癪だけど身体の相性はすげーいい)
「そう。私もすごくイイよ。これだけ相性ピッタリなら、もう付き合おうよ」
和将はこんな時でも、本命になりたいアピールをしてくる。随分余裕があるのが癪で、力いっぱい「嫌だ!」と叫んだ。
「……傷付くなぁ、もう」
言葉の割には楽しそうな声が聞こえて、やっぱりコイツは性格が悪い、と思う。
「あっ、あっ、イヤだ……っ、イイっ!」
フルフルと顔を振って、快感に耐えると、後ろで笑う声がした。
「どっちなの、真洋」
「おか、おかしくっ、なりそうだから、イヤだ!」
喘ぐ合間にそう言うと和将はぐっと体積を増した。
圧迫感と排泄感が増して、真洋は声も出せずに喘ぐ。それと同時に、まだ余裕があった和将の事を、恨めしく思った。
(もうムリ、意識飛びそう!)
和将が動く度、真洋の腰は勝手に跳ね、チカチカと視界に星が飛ぶ。ドライオーガズムに達したのは初めてで、幾度となく来る激しすぎる快感に、脳が悲鳴を上げていた。
すると和将が動きを止める。じんじんと麻痺する思考で、和将が達した事を知ると、2人の荒い息遣いが部屋に響く。
「もー……ムリ……」
真洋が動けずにいると、和将は真洋の頭を撫で、真洋の中から出ていく。
そして和将は小さく笑った。何笑ってんだ、と彼を見ると困ったように眉を下げている。
「いや、手を放してくれないかな?」
動けないんだけど、と言われ慌てて手を放す。
いつの間に手を握ったのだろう、いや、それよりも何故、手を握ったのだろう。
「離れがたいの? それなら嬉しいけれど」
「それはねーし」
掴んでいた手を振って、しっしっと追い払う。
何故かなんて考えるだけ無駄だ、コイツはセフレなんだから。
「真洋、良かったらここで一泊して、明日デートしない?」
「あ? 何でだよ」
ベッドにぐったりしたままの真洋とは対照的に、和将はベッドから降りて水を飲んでいる。
セフレなんだから、ヤればそれで終わりで良いじゃないか、と真洋は思う。
「この間ドタキャンしたお詫び。それに、さっきも言ったけど仕事が忙しくなりそうだから、空いてる時間は一緒にいたいって思ってね」
好きな物奢るよ、美味しいもの食べに行こう、と言われ真洋は迷う。食べ物に釣られている感じがするが、それなら、と承諾した。
和将は、セックスの時は意地悪な発言をするが、基本的に優しい。
そして今日はさらに優しく感じる。どういう風の吹き回しだろう。
「何? もしかして裏がありそうって疑ってる?」
「……」
真洋は言葉に詰まる。図星をつかれて、でも素直にうなずく事もできなかった。
しかし、和将は機嫌を悪くするでもなく、むしろ嬉しそうに近付いて、真洋の頭をわしゃわしゃ撫でる。
前髪をかきあげるようにすくったので、反射的にその手を振り払った。
「やめろ、子供じゃあるまいし」
「……」
真洋も動けるようになったので、ベッドヘッドに置いた瓶底メガネをかける。わざと顔を隠すように髪をわしゃわしゃと崩し、シャワー浴びてくる、と歩き出す。
「ねぇ、綺麗な顔してるのにどうして隠すような事をしてるの?」
当然のようについてきた和将は、そんな事を言ってくる。
「晶といい、アンタといい、みんな同じ事言うのな。俺の勝手だろ」
バスルームに入るとシャワーでお湯を出す。体液で汚れた身体を洗うだけなので、さっとお湯をかけるだけだ。
「もったいない……」
「だから、やめろって」
和将が再び髪をかきあげるようとしたので、その手を払う。
「顔なんか出したって、いい事ねぇよ」
そこではた、と真洋は気付く。そう言えば、初めて会った時に、真洋はこうなった経緯を話したんじゃなかったか。
「どうした?」
シャワーを交代した和将が、動きを止めた真洋の顔を覗き込む。
「いや、俺あんたと出会った時、何をどう話した?」
何もかも知っているならば、真洋が敢えてこの髪型をしている理由を聞かないはずだ。もしかして、と思って聞いてみる。
「大好きだった恋人に浮気された。その元恋人から連絡来て、当時を思い出したから酒飲んでるって」
それにしても良くない酔い方してるから、放っておけなくて付き合ったが、同じ話を繰り返すだけだったという。
「よっぽど酷い目に遭って、ショックだったんだろうなって思ったから、慰めようとホテルに誘ったんだよ」
という事は、和将はまだ全部を知っている訳じゃなさそうだ。
真洋は心底安心した。弱みにつけ込んでホテルに誘うのはどうかと思ったが、酩酊していた真洋も悪いし、目をつむるとしよう。
「何? 真洋の事、少しは教えてくれる気になった?」
脱衣所に移動して身体を拭く和将は、嬉しそうだ。
「ねーよ。セフレにそんな情報、必要ねぇ」
「私は本命になりたいんだけどなぁ。うーん、真洋の攻略は難しい」
和将は困った顔で笑うが、でも明日はデートだからね、と嬉しそうに言った。
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