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第11話

次の日、真洋があまり外は出歩きたくないと主張したので、繁華街から外れた、適当に入ったうどん屋でうどんをすすっていた。 「しかし細いのによく入るね」 和将は感心したように呟く。 適当に入った店だったが当たりで、うどんはもちろん、天ぷらも唐揚げも、味噌汁もご飯も美味しい。 対して和将は、天ぷらうどんを単品で、所作良く食べていた。今は真洋が食べ終わるのを楽しそうに眺めて待っている。 「昔は食いっぱぐれる事が多くてさ、食べれる時にガッツリ食うクセが付いてんだ」 「それは、仕事が忙しかったってこと?」 「……」 しまった、と真洋は内心舌打ちした。こういう何気ない会話でも相手に情報を与えてしまうから、必要以上に会いたくないのだ。 「そこは答えても良いところじゃない?」 「やだね。そしたら、『どんな仕事してた?』ってなるだろ」 「意外にちゃんと考えてるよね。シラフの時は」 「一言多いぞ」 真洋は睨むが、和将は楽しそうだ。 ずっとニコニコしていて、真洋の方が気恥ずかしくなってくる。 すると和将のスマホが震える。彼は画面を見て真洋に断りを入れ、電話に出た。 「もしもし、お世話になっております。……はい、その件でしたら……」 和将が仕事の話をしている所を初めて見たので、なんだか新鮮だ。 和将が電話をしながら店の外へ出ていったのを見送って、真洋はうどんの汁を一気に飲み干す。 そのタイミングで、真洋のスマホにも着信がくる。相手は晶だ。 幸い店には真洋以外いないし、と電話に出ると、晶の慌てた様子が声から伝わってきた。 「悪ぃ真洋、今日空いてるか?」 今日はレッスンもたまたま休みだし、和将と一緒にはいるけど何も予定は無いので、空いてると言えば空いてる。 「空いてるっちゃあ、空いてる」 「ショッピングモールまで今から来れるか? 今日演奏する予定のペット奏者が、事故で来れなくなって」 「は? まさかその代役を俺にやれっていうのか? 無茶だ」 「頼む。トロンボーンとの掛け合いの曲があるんだよ。その1曲だけで良いから」 いくらなんでも本番直前、しかも練習無し、初めて合わせる相手、初めて吹く曲をやれと言われても、ためらう気持ちの方が大きい。 「ボーンメインの曲だし、ホントお飾り的にいてくれれば良いから」 思えば、晶がこんなに慌てているのを見たことが無い。本当にピンチなんだな、と思うと何とか助けてやりたい気持ちもある。 「……分かったよ。とりあえずメールで楽譜くれ、行きながら確認する。衣装は? 前と同じでいいか?」 観念していくつか確認すると、真洋は衣装を取りに行くために、準備する。 すると、和将が戻ってきた。片付けをしている真洋を見て、どうしたの? と聞いてくる。 「悪い、急に仕事が入った。今から現場に行くから……ご馳走様な」 「現場って、どこ?」 慌てた様子の真洋に、和将も一緒に店を出る準備を始める。 「ショッピングモール。だけど1度帰って、荷物を取りに行かないと」 「電車と歩きで? 時間かかるでしょう、私が送るよ」 慌ただしく会計をし店を出ると、和将はコインパーキングに車を停めてあるから、と方向を指差す。 申し出はありがたいが、家の場所を知られるのは嫌だ、と思っていると和将は心を読んだような事を言ってくる。 「色々ためらってる時間は無いんじゃない? さ、行くよ」 真洋は楽器ケースを背負い直し、2人で走った。

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