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第16話
(最悪な夢だ……)
真洋はのっそりと起き上がる。もうちょっとマシなエピソード無かったのかよ、俺の脳、と変な独り言を言った。
時計を見ると、もう仕事に出ないといけない時間だった。やる気は出ないけど、休む訳にもいかない。
あれから1週間、今日は金曜日だ。晶からは鬼電鬼メールが来ているが、和将からは連絡は無い。
晶のメールは話をさせてくれという内容で、必ず謝罪の言葉が入っている。彼自身、悪意があってやった訳じゃないんだなと、ようやく理解し始めたところだ。
「やば、準備しなきゃ」
真洋は軽く身支度して、食事も摂らずに家を出る。外は少しずつ寒くなってきていて、空が高い。
True Lightsが解散してから5年、最近まで割と平穏だったはずなのに、何故今になって蒸し返すような事が起こっているのだろう?
今日のレッスンの現場に向かいながら、真洋は思う。
(まだ傷付けってか? もっと目立たないようにしろと?)
これ以上どうしろと言うのか。元所属事務所との関係もあり、芸能界での仕事は取れない。
かといって、真洋は音楽以外、得意なものは無い。
(できることをしているだけだ。それで良いだろ、光)
現場に着くと、淡々と仕事をこなす。幸い、気持ちを切り換えるのは慣れているので、難なく1日が終わった。
仕事終わりに入っていたメールを確認する。
和将とはあれ以来なので、会うのは気まずいなと思っていたら、こちらを心配する旨と、キャンセルのメールが入っていた。
正直、今は誰にも会いたくないのでホッとする。
メールに返信はせずにスマホをポケットにしまうと、早く帰ってシャワー浴びて寝よう、と足早に帰路に着いた。
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