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第4話

「神くん、ありがとう。お礼しなきゃ、ね」  制服を着て、空はピアノに向かった。 「お礼、って」 「手を貸してくれた、お礼」  人に親切にしてもらうと、嬉しいよね。  そう言って空は、椅子に腰かけた。 「神くんは、どんな曲が好き? 今、どんな曲が聴きたい?」  お礼に、ピアノを弾いてくれるというのか。  雅臣は、隣でイライラしている長田を横目で見た。 「そうだな。ドビュッシーの『月の光』、弾けるかい?」  長田の心を鎮めようと、雅臣は静かな癒しの曲を選んだ。 「難しい曲名を言われても、解んないな。どんな感じの曲?」 「ええっと。穏やかな曲を頼むよ」 「OK」    空はピアノに向き直ると、譜面も見ずに鍵盤に指を置いた。  紡がれるのは、バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』だ。  空が演奏を始めると、周囲の空気が一変した。  美しい旋律を、よどみなく弾いてゆく空。  その調べは、どこまでも清らかで心地よい。  長田の顔つきも、穏やかに変わっている。  最後の音が静かに響き終わると、雅臣は思わず拍手をしていた。 「ブラボー! すごいな、譜面も見ずに」 「僕、曲を聴いたら耳で覚えちゃうんだ。その通りに弾いてるだけだよ」  はにかんだ空の笑顔が、可愛い。 「拍手してくれて、ありがと」 「また、聴かせてくれるかな」 「うん、いいよ」  こうして、雅臣と空は知り合った。

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