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第16話

「まずは、健康状態を良くしよう。ちゃんと食べてちゃんと眠って。屋敷にはジムがあるから、そこで充分運動もして」 「う、うん」 「それから、礼儀作法や基礎学力も身につけよう。焦らなくていいから」 「うん」 「もちろん、ピアノを弾く時間も調整するよ。好きな時に、というわけにはいかないだろうけど」  大人しく聞いていた空だったが、やがておずおずと口を開いた。 「あの。僕、ここに住むの? 神くんの家に」 「君は、私のものになったんだ。神家の人間に、なったんだよ」  将来は一流になって、億という額を叩きだすピアニストになる。 「そのために、私は君に投資したんだ」 「一流……、ピアニスト……、億……」  そんな。  そんな、僕は。  ただピアノが好きな、ピアノを弾くのが好きなだけの人間なのに。 「大丈夫。君の腕は、私が保証する。自信を持って」  雅臣は、手を差し伸べた。  あの時のように。  初めて会った、あの日のように。  空は、その手を握った。  どうなるか、将来のことは解らない。  だけど、僕は神くんについて行こう。  彼に、賭けてみよう。  二人は固く握手をし、微笑み合った。

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