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第22話
それでも、旅行は楽しかった。
著名なピアニストの演奏会を聴きに行ったり、オペラの観劇をしたり。
そして、美しい所をいろいろと訪問した。
古城、自然公園、石畳に並ぶ露店の数々。
どれもが、空の心を潤した。
紅葉の川辺を、雅臣と散策した。
「夕日がきれいだね」
「……」
「雅臣くん?」
「空の方が、綺麗だ」
え?
今、何て?
「キスして、いい?」
「え、あ。あ、あ……」
そっと、雅臣の唇が空に重なった。
時が、止まったようだった。
「明日の演奏会、私のために弾いてくれないかな。空」
「雅臣くん、……雅臣のために」
「そう。私のためだけに」
雅臣は、空をそっと抱きしめた。
「舞台の袖で、ずっと見守っているよ」
歓喜で、震えが来た。
雅臣くんが。
雅臣が、キスしてくれた。
卑しいオメガだった僕を、抱きしめてくれた。
空の眼に、涙が溢れた。
明日、思いきり楽しんでピアノを弾こう。
雅臣のために。
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