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番外編⑥ 純愛インモラル3

「……腰痛い……。明日部活休むことになったら先輩のせいですよ!」   鈍く痛む腰を擦りながら、着替えを済ませカバンを掴む。 「本当に俺のせいか? お前だってノリノリだったくせに」 「やかましいです! あ、あれは……流されてつい……」 「つい、ねぇ……」  くくっと喉で笑われて顔がブワッと熱くなるのを感じた。 「と、とにかく! 僕はもう行きますからっ」    「なんだよ、もっとゆっくりして行けばいいのに」   暢気にソファに座ったまま、先輩が読んでいた雑誌から顔を上げてそう呟く。   「和樹と約束してるんです。昨日言いましたよね僕。それなのに先輩が朝からサカるから……」 「強請ったのはお前だけどな」 「うっ、知りませんっそんなの!」   キッと睨みつけた視線を軽く流し、先輩が肩を震わせ笑っている。   とにかく、早く行かないと。    本来ならもうとっくに和樹の家に着いてるはずだったのに。   「じゃぁ、僕もう行きますから」  「あ、ちょっと待て」  急いで玄関に向かおうとした僕を何故か先輩が呼び止めた。   「コレを鷲野に渡しといてくれ」   「いいですけど、なんです?」   すっと差し出された紙袋にはCDらしきものが一枚はいっている。   「この間にアイツに貸すって約束してたんだよ。ずっと忘れてたんだ。ついでだし、いいだろ?」   そう言って、僕のカバンに紙袋を押し込んだ。   「まぁそれくらいなら……」  「そっか、悪いな」  カバンを閉めると、ヒラヒラと手を振る先輩の家を後にした。 その数十分後――。  約束の時間ぎりぎりになって和樹の家に到着した僕は、忘れないうちにと先輩から受け取ったCDを手渡した。 「なにこれ?」 「え? なんかわからないけど、前に和樹に貸すって約束してたものだって言ってたけど……」   「橘先輩が?」   「う、うん……」 「なんだろ? 先輩に何か頼んだっけ?」     不思議そうに繁々とソレを眺める和樹。心当たりが無いのか、ただ単に忘れているだけなのか……。   「まぁ、聞いてみればわかるんじゃない?」  「それもそっか」    小さく息を吐いてCDを受け取ると早速和樹がデッキにそれを挿入した。   「僕も一緒に聞いてもいい?」   「ん、いいけど……」   「一体何が入ってるんだろう?」  「さぁ」  和樹が再生ボタンを押したその瞬間――。 『あっあ…っせんぱ……っ』  「!?!?!?」    部屋中に響き渡ったのは明らかな喘ぎ声。ベッドが軋むスプリングの音が昨夜の行為を思い起こさせる。    一瞬、何が起こったのかわからずに僕の頭の中は真っ白。 「え、なに? こ、これを俺にどうしろって?」   「……ははっ」  咄嗟に音源を消したと僕デッキを見比べる和樹の姿に、引きつり笑いしか出てこない。  あの人、ほんっと趣味悪い。僕にこの場をどうしろって言うんだ!?    人を馬鹿にしたような笑みを浮べながら腹を抱えて笑う先輩の姿が目に浮かぶようで、恥ずかしいやら腹が立つやらでどんな顔をしていいのかわからない。 取り敢えずこの場を何とかしないと。突き刺さるような和樹の視線を感じながら、僕は軽い眩暈を覚えた。

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