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ティップオフ ③
「すみません……僕がもっと振り切っていけてれば……」
「気にすんなって、雪哉。落ち着いてチャンスを待とう」
「……うん、そう、だけど……」
和樹が励ましの言葉をかけるも、雪哉から漂う気まずそうな雰囲気は晴れない。先程の試合の流れは完全にあちらのものだった。あれではたとえ1点返したとしても流れを取り戻すのは難しいだろう。
「まだワンゴール決められただけだろうが! シケた面してるんじゃねぇよ!」
げしっっと音がしそうな勢いで、橘が雪哉の背中を蹴り飛ばした。
「ちょ、何するんですかっ!」
「ウジウジしてるからだっつーの! このくらいでビビッてんのか? らしくねぇことすんな。 俺達は絶対勝つんだ! そうだろ!?」
「……っ、はい!」
橘の言葉にハッとする。そうだ……ワンゴール決められたくらいで凹んでどうする。 此処で負けたら、橘ともう会えなくなってしまうんだぞ? それだけは絶対に嫌だ。
「ハッ、俺らに勝つって? 随分舐めた発言してくれるじゃん」
「舐めてなんかないよ……。僕らは本気だ。絶対に負けない……」
「ハッ、言ってくれるじゃん」
雪哉は佐倉の挑発するような言葉に、静かに、だがはっきりと宣戦布告をする。そうだ、自分が呑まれていては駄目だ……しっかりと状況を見て判断しないと……。
「雪哉」
ふいに和樹に呼ばれ振り返る。すると左手で小さく合図を送って来た。
瞬時にそれを理解すると、雪哉は佐倉の動きを警戒しながら動ける準備をする。
ボールを持った和樹がフロントコートへと侵入してくる。途端に藤澤の選手たちがディフェンスに向かって行った。ほんの一瞬、佐倉のマークが外れる。
和樹のドリブル技術はまだそれほど凄くない。スピードだってそこまで早いわけじゃない。
だから――。
和樹が左にドリブルしてディフェンスを抜きに掛かった。和樹のマークに付いていた選手がその動きについていこうとして、その身体が雪哉とぶつかった。
「!?」
雪哉のスクリーンが見事に決まり、雪哉とすれ違うようにして和樹はディフェンスを突破した。ノーマークになると即座にシュートの体勢を取る。
「くそっ、撃たすか!」
慌てて、佐倉が和樹を止めに向かって行く。
(よっしゃ、かかった!)
和樹は、向かってきた佐倉の奥目掛けてパスを出した。
「――しまっ……!」
床でワンバウンドしたパスは、スクリーンの位置からゴールへと走った雪哉へと綺麗に通り、カバーに向かってきた一条よりも速く、シュートモーションに入った雪哉は脇を絞めその場でグッと腰を落とし、そして――。
「っ!」
「……よしっ!」
雪哉の手から放たれたボールは綺麗な曲線を描き、ネットを揺らした。
「ナイシュー、雪哉!」
「上手くいったね。和樹」
和樹とガッチリと手を合わせて、ハイタッチを交わす。
「チッ、やられた……っ!」
悔しそうに顔を歪める佐倉を横目に見ながら、雪哉はふぅ、と一息吐くと気を引き締め直す。
「もう一本、行こう」
まだまだ始まったばかりだ。気を抜いてはいられない。
絶対に……絶対に、勝ってみせる!
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