100 / 152

ティップオフ ③

「すみません……僕がもっと振り切っていけてれば……」 「気にすんなって、雪哉。落ち着いてチャンスを待とう」 「……うん、そう、だけど……」  和樹が励ましの言葉をかけるも、雪哉から漂う気まずそうな雰囲気は晴れない。先程の試合の流れは完全にあちらのものだった。あれではたとえ1点返したとしても流れを取り戻すのは難しいだろう。 「まだワンゴール決められただけだろうが! シケた面してるんじゃねぇよ!」  げしっっと音がしそうな勢いで、橘が雪哉の背中を蹴り飛ばした。 「ちょ、何するんですかっ!」 「ウジウジしてるからだっつーの!  このくらいでビビッてんのか? らしくねぇことすんな。 俺達は絶対勝つんだ! そうだろ!?」 「……っ、はい!」  橘の言葉にハッとする。そうだ……ワンゴール決められたくらいで凹んでどうする。 此処で負けたら、橘ともう会えなくなってしまうんだぞ? それだけは絶対に嫌だ。 「ハッ、俺らに勝つって? 随分舐めた発言してくれるじゃん」 「舐めてなんかないよ……。僕らは本気だ。絶対に負けない……」 「ハッ、言ってくれるじゃん」  雪哉は佐倉の挑発するような言葉に、静かに、だがはっきりと宣戦布告をする。そうだ、自分が呑まれていては駄目だ……しっかりと状況を見て判断しないと……。 「雪哉」  ふいに和樹に呼ばれ振り返る。すると左手で小さく合図を送って来た。  瞬時にそれを理解すると、雪哉は佐倉の動きを警戒しながら動ける準備をする。  ボールを持った和樹がフロントコートへと侵入してくる。途端に藤澤の選手たちがディフェンスに向かって行った。ほんの一瞬、佐倉のマークが外れる。  和樹のドリブル技術はまだそれほど凄くない。スピードだってそこまで早いわけじゃない。  だから――。  和樹が左にドリブルしてディフェンスを抜きに掛かった。和樹のマークに付いていた選手がその動きについていこうとして、その身体が雪哉とぶつかった。 「!?」  雪哉のスクリーンが見事に決まり、雪哉とすれ違うようにして和樹はディフェンスを突破した。ノーマークになると即座にシュートの体勢を取る。 「くそっ、撃たすか!」  慌てて、佐倉が和樹を止めに向かって行く。 (よっしゃ、かかった!)  和樹は、向かってきた佐倉の奥目掛けてパスを出した。 「――しまっ……!」  床でワンバウンドしたパスは、スクリーンの位置からゴールへと走った雪哉へと綺麗に通り、カバーに向かってきた一条よりも速く、シュートモーションに入った雪哉は脇を絞めその場でグッと腰を落とし、そして――。 「っ!」 「……よしっ!」  雪哉の手から放たれたボールは綺麗な曲線を描き、ネットを揺らした。 「ナイシュー、雪哉!」 「上手くいったね。和樹」  和樹とガッチリと手を合わせて、ハイタッチを交わす。 「チッ、やられた……っ!」  悔しそうに顔を歪める佐倉を横目に見ながら、雪哉はふぅ、と一息吐くと気を引き締め直す。 「もう一本、行こう」  まだまだ始まったばかりだ。気を抜いてはいられない。  絶対に……絶対に、勝ってみせる!  

ともだちにシェアしよう!