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ティップオフ ④

 今日の橘は、今までずっと側で見てきた中で一番調子が良さそうだった。   いつも以上に周りが見えている。  ボールの扱いが上手いし、ディフェンスの受け渡しなども無駄が無い。  実際に今も、飛び出してきたディフェンスに食い止められ、立ち止まる――と見せかけた緩急差ヘジテーションからの背面持ち替え(バックチェンジ)で一人抜き。  カバーに入ってきた二人目に対して、左を抜く、と見せかけて右へ切り返す。  そしてあっという間にに抜き去り、レイアップ!  ふわりと宙に浮いたボールは、綺麗にリングの中央へと吸い込まれていった。 「っしゃ!」  客席からは大歓声が沸き上がる。  本当に、今日は橘が格好良く見える。いや、いつだって格好良いけど。でも、今日の橘は一段と輝いて見えた。 「先輩、ナイッシュー!」 「おう! 食らいついてくぞ!」  汗を拭いながら嬉しそうに笑うその笑顔が凄く眩しい。  やっぱり好きな人の活躍って嬉しいなぁ……。  なんて思いつつ、僕も負けてはいられないと気合を入れ直したところで――。  ピーッ!! 前半終了の笛が鳴った。  スコアは28対18。未だ藤澤のリードは崩れない。  だが、逆転できない数字ではない。 「みんな、あの藤澤相手によく食らいついてるな。和樹も、しっかり相手の動きが良く見えてる」 「へへ……っ」  増田に褒められ、和樹が何処となく照れくさそうに笑う。 「技術が未熟なのはこの際気にするな。その分、みんながフォローしてくれるから、大丈夫だ。この一年で覚えた事、全部出し切れ」  和樹の頭をぽんと撫でて、増田が安心させるように笑った。  和樹は緊張気味にこくんと一つ大きく首肯して、頬をぱちんと叩く。 「今日は橘が特に調子がいいな。もしかしたら佐倉のマークチェンジもあり得るかもしれない。その時は――萩原、わかってるな」 「っ、はい」  佐倉のディフェンス能力は高く、雪哉も中々出し抜けないでいた。それが外れたとしたらもう遠慮はいらない。つまりはそう言うことだと雪哉は理解した。 「向こうは選手層が厚いから、もしかしたら佐倉以上のディフェンス能力を持った控え選手 が居るかもしれない。その時はまた、改めて考えればいい。今はとにかく、食らいついて、行けそうなら全員でガンガン攻めろ!」 「うっす!」  全員で気合を入れなおし、後半開始に備える。  さぁ、勝負は後半戦だ。  明峰高校、チームプレーの見せ所だ! コートに入ると、観客席から大きな拍手と応援の声が響いてくる。  観客の視線も、応援も、すべてが自分達に向けられているように感じた。

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