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ティップオフ ⑤
ビィ――――ッ。
試合再開のブザーが鳴った。
10点のリードをもって後半戦を開始した藤澤は、時間をかけてオフェンスを展開していた。
どんどん点を取りに行くのではなく、リードを守る作戦のようだ。守備的なチームとしては自然な作戦だと言える。
それで時間を稼がれれば、当然、明峰にとって不利だ。
「このっ……!」
藤澤のPF へのパスに対して、鈴木が手を伸ばした。指先が辛うじて触れ、ボールの行き先が逸れる。
宙を舞ったルーズボールはコートの外へ。
そのまま床に落ちて藤澤ボールからの再開――かと思われたが、誰よりも早く雪哉がボールに飛びついた。サイドラインぎりぎりで拾って素早くドリブルに持ち込み、速攻を仕掛けようと一歩を踏み出す。
――が、目の前に、佐倉が立ち塞がっていた。
「っ!」
雪哉は突破 を左に、と見せかけて一気に右に切り返し、一瞬反応が遅れた佐倉の隙を突いて抜き去る、が、抜き去った先には一条がコースを塞いで待ち構えていた。
(まずい……っ)
雪哉は思わず足を止め、慌てて一条に背を向けボールを両手で掴んで保護した。ドリブルを止められパスかシュートしか選択肢が無ければシュートを狙うしかない。
だが一条はそう簡単にはシュートを打たせてはくれないだろう。仮にも一条は都内トップクラスのC だ。無理に撃ちきれるものでもない。
だったらパス? いや、それは佐倉に止められる可能性が高い。
――だったら……! 雪哉は、一旦上半身を振って左に踏み替え するフェイク動作を入れ、右に踏み替えピボットターンしてシュート体勢に入った。
「甘いよ、萩原っ」
素早く一条は反応し、手を伸ばしてシュートを妨害して来た。
だが、雪哉はそこからさらに一歩踏み込んだ。
「!」
雪哉は一条のすぐ横に体を入れて、アンダーハンドでボールを放り投げた。
バックボードに当たったボールはそのままネットへと落ちていく。
「甘いのは、そっちだよ。一条」
「くそっ!」
雪哉の鮮やかなシュートに、客席からどよめきが上がる。
「おおお! 雪哉すげーっ! 何今の!?」
「よかった、上手く決まって。ほら、喜んでる暇はないよ、和樹。切り替え!」
興奮気味の和樹を叱咤し、相手の攻撃に備える。点差はまだ8点も開いている。だが油断はできない。此処からどれだけ追い上げられるかが勝敗の分かれ道だ。
「わかってる……よっ! っと」
相手ボールを素早く和樹がカットし雪哉は空いているスペースへと走る。振りをしてフリースローラインを付近を目指した。案の定自分のマークは佐倉が外れ、3年の山田が付いてきている。
佐倉よりプレッシャーは少ないが足は速そうな選手だ。何より、行かせないと言った気迫が滲み出ている。
「萩原、パス!」
鈴木からパスを受け取りゴールまで真っすぐ背面押し込みバックダウンを仕掛け、相手選手を押し込み、逆側へ切り返して抜きに掛かる。
途端に相手チームのディフェンスが収縮するのがわかった。
「アイツにシュートを撃たせるな!!」
藤澤ベンチからの野次が飛ぶ。 雪哉の攻撃力は前々から警戒されていた。前半は佐倉に押さえ込まれていたもののそれでも、何点かは得点に貢献している。
雪哉がゴールに向かって仕掛けようとするその動きは、強烈に相手ディフェンスを引きつけていた。
雪哉はジャンプし、シュートモーションに入る――と、見せかけてコーナーへパス!
「サンキュ、萩原!」
「あっ! くそっ」
コーナーにはフリーになった橘が待ち構えていて、ボールを受け取るとすぐさま3Pを放った。
佐倉が手を伸ばすよりわずかに早く、橘の指からボールは離れ綺麗な弧を描いてゴールに真っすぐ飛んでいき、スパッという小気味いい音を立ててネットを揺らした。
スコアボードが28-23を表示する。
流れは今、完全にこっちに来ている。 雪哉達全員がそれを実感していた。
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