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好きなのは君以外に考えられなくて ②

「な、何やってんだよオマエ」 「……まだ、帰りたくないです」  背後から切なげな声が響く。恐らく、雰囲気で自分が戻らなければいけないことを悟ったのだろうが、そうも言っていられない。 「馬鹿言うな。親が心配するだろうが」 「だって、今戻ったらまたしばらく先輩に会えなくなるでしょう? せっかく半年ぶりに会えたのに。もう少し、先輩の側に居たい……。だめ、ですか?」 「……っかやろ……」  今にも泣きそうな声で尋ねられ、堪らず身体を反転させて強く抱きしめた。頬を掴んで仰向かせ戸惑う唇を乱暴に塞ぐ。 「ぅ……っん、ん……っ」  幾度となく角度を変えて口づけて、背中に腕が回ったことを確認し、再びラグの上に押し倒した。 「あんま可愛い事言うな馬鹿! また襲われたいのか?」 「……先輩になら、なにされてもいい」 「お前なぁ……今、すっごい殺し文句言ってんの、わかってるんだろうな」 「いっそ、先輩が僕の事意外考えられなくなるくらい溺れちゃえばいいのに……」  眉を寄せ切なげにそう呟く姿にじわりと苦笑して、艶のある髪をそっと撫でた。 「ばーか、そんなのもうとっくに……お前の事意外考えらんねぇくらい惚れてるっつーの!」  言いながら、恥ずかしくなってしまった。赤くなった頬を誤魔化すように軽く雪哉の額にデコピンを食らわせる。 「いたっ、……もう、直ぐ叩く」    ブツブツ言いながらも表情は柔らかい。 「あーもー。うっせーな」    文句を言う唇に軽く口付けて、目が合ってお互いに失笑が洩れた。雪哉の首筋や頬を撫でながら橘は言う。 「オレさ……、今教習所通ってんだよ」 「えっ?」 「免許取ったら、一番にお前乗せてやるし……試合だって応援に行ってやる。今より会う時間は少なくなるだろうけど、もう二度と会えないわけじゃねぇだろ。だからさ……今日はもう帰れよ。送ってくし」 ひやりと冷たい指がそっと目の縁を拭う。両手で頬を包み込んで雪哉を覗き込む瞳には切なげな色が浮かんでいる。 「つか、嫌だつったらデコピンな」 「えー、最悪」 「親が心配してるだろ? お前んとこの母ちゃん達に、『ウチの子をこんな遅くまで連れまわして! もう二度と会わないで頂戴!!』なんて言われたら困るんだよ」 「ハハッ。なにそれ……」 橘の言いたいことは十分に伝わっているようで笑ってはいるけれど、表情が一気に暗くなる。 「だから、んな顔するなっての! また、会いに行ってやるから……」 「――っ、うん」  切なさを誤魔化すようにぎゅっと抱きついたら、包み込むように抱きしめ返してくれる。それが堪らなく嬉しくて、ますます雪哉は身体を密着させた。 「馬鹿、重いっつーの! 退けよ」  言葉ではそう言いながらも触れてくる手はあくまで優しい。 「ねぇ、先輩。もう一回僕の事好きって言って下さい」 「うぜぇ。あんましつこいと焼くぞ!」 「えー、ていうか、はっきり好きだって聞いてない」 「そうだっけ? あー、まぁ気が向いたらそのうち、な。だから今はコレで我慢しとけ」    顎をくいと持ち上げて唇を指でなぞる。 じっと見つめると雪哉の頬に赤みがさすのが手に取るように分かった。 「……あ――っ」    視線が絡み、互いに引き寄せ会うようにしてるようにして唇を寄せ合う。   バケツをひっくり返したような雨はいつの間にか上がり、やわらかな光が降り注ぐ部屋の中、やっと思いの通じ合った二人は幸せを噛みしめながら、触れ合うだけの口付を交わした。

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